VWディーゼル排ガス問題 マツダの「不正ない」公式声明を検証する
北米で発売を延期した「SKYACTIV-D」
さて、ここで一度話が変わる。マツダはSKYACTIV-Dを北米で売っていない。これについては北米マツダからステートメントがでているので翻訳した全文を掲載する。
“マツダ、SKYACTIV-Dクリーンディーゼルの北米導入を延期 カリフォルニア州アーバイン発 (2014年1月8日) ―マツダ・ノースアメリカンオペレーションズ(Mazda North American Operations)は、2014年春に北米へ投入すると発表していたSKYACTIV-D(スカイアクティブ-D)クリーンディーゼルエンジンの導入タイミングについて、さらに延期することを本日発表した。 NOx後処理技術なしで排ガス規制適合の見通しは得られているが、マツダらしい走りの性能や燃費を両立するためには、更なる開発が必要と判断したためである。 北米導入の時期、技術スペック、燃費等の詳細情報は今後導入が近づいた時期に発表する。 カリフォルニア州アーバインに本社を置くマツダ・ノースアメリカンオペレーションズは約700の販社を通じて、米国およびメキシコでマツダブランド車両の販売、マーケティング、部品及びカスタマーサービスの提供をサポート。メキシコでのオペレーションはメキシコシティにある マツダモトールデメヒコがサポートしている。” つまり、十分なパワー&燃費とNOx基準のクリアが両立できていないので発売を見送ると言っている。不正をする気があれば何も発売を延期する必要はないと思われる。 ちなみに、この事件が発覚して以降、Tier2 Bin5の規制について、あちこちで絶対数値のみが取り上げられているが、Tier2 Bin5の本当の厳しさはその数値ではなく、むしろエンジンの運転状況をより厳しくした場合の排ガス数値を求められる点だ。例えば、エンジンが冷えている状態からの急加速などは、NOxをコントロールするのが難しいし、新車時だけでなくクルマのライフタイムでの環境対策を図るため12万マイル(約20万キロ)走行後の数値で測定される。ユーロ5はそういう運転モードが緩かったのである。 「NOxについて後処理なし規制適合をさせる見通し立っているが、走りの性能や燃費を犠牲にし過ぎないためには、更なる開発が必要だ」というマツダのステートメントからは、世界で最も圧縮比の低いディーゼルエンジンというアプローチによって、パワーを我慢してNOxを制御したエンジンを、さらにパワーダウンさせるわけにはいかないという苦しさが見えてくる。 筆者はプログラムを解析したわけでもないし、その能力もない。ただ、こうした設計思想の違いや、北米での発売延期という事実をつなぎ合わせる限り、マツダのディーゼルに不正ソフトが使われているとは考えにくいと思っている。 (池田直渡・モータージャーナル)