<ラグビー>日本選手権で最後の学生vs社会人 帝京大は勝てるのか
二つ目は、エリア獲得合戦を制することができるか。 フィジカリティの強い帝京大としては、なるべく敵陣ゴールラインに近い位置でその迫力を示したい。的確にスペースを見定め、敵の裏に鋭いキックを蹴られるか。 司令塔のスタンドオフの松田力也副将は、「相手の立ち位置はよく観てやっている。判断していけたら」と展望。同じくエリア獲得術に長ける相手のスクラムハーフの流大主将(NECを撃破した際の帝京大で主将だった)、スタンドオフの小野晃征のことは、チーム全体でチェックしたいという。 三つ目は、スクラムの脅威をいかに避けられるか。 どちらかが軽い反則をした場合に訪れるスクラムは、最前線のフォワードが8対8で組み合い、その下へボールを通すプレー。ここで押すか押されるかによって、そのチームの立ち位置が前後する。 今季の帝京大は、例年以上にスクラム強化へ時間をかけなかった。そのためか大学選手権の決勝では、自陣ゴール前で2度、相手ボールのスクラムを押されトライを喫している(1月9日・秩父宮・対東海大・〇33―26)。 かたやサントリーは、春に元日本代表スクラムコーチのマルク・ダルマゾ氏を客員指導者に招くなどし、8人一体で押すスキルとマインドを構築した。シーズン終盤は、強さに定評のあるヤマハ、神戸製鋼からもターンオーバーを奪取。底力をつけている。 スクラムはサントリーにとっての強みであり、帝京大にとっての改善点とも取れる。最前列で組むフッカーの堀越は、その事象をどう捉えているのだろうか。 決して、悲観していない。 「東海大戦では結果的に我慢できずに押されてしまったものがあっただけで、こちらとしてのいいスクラムもたくさんありました」 1月18日、日野市の帝京大百草グラウンド。パナソニックの相馬朋和ヘッドコーチの姿があった。前年度まで同大のスクラムコーチをしていた同大OBで、いまでも定期的に来訪するという。大一番に備えても約1時間弱、スクラムの実戦練習を指導していた。端的に言い切る。 「アタッキングマインド(相手を凌駕しようという意志)、ボディポジション(個々の正しい姿勢)、セットアップ(適切な団結)。大事なことはそれだけです!」 一方、試合中のスクラムの回数自体を減らそうともしている。「しっかりとマイボールをキープできるように」と松田副将。無駄なミスを減らし、フォワードの負担を軽くしたい。 いまの大学3年生以下の選手は、「打倒トップリーグ」を目指すことができない。帝京大3年で来季主将の堀越は、それでも前向きに未来を語る。 「来季は、今年以上に厳しい1年になる。9連覇を目指すプレッシャー、他大学の強さもある。今年と同じことをしていても絶対に勝てないと思うので、イノベーションをしていきたいです」 そんななかサントリーは、本気で挑む。 元日本代表コーチングコーディネーターの沢木敬介新監督は、前年度9位と低迷していたチームを厳しい態度で蘇生。4季ぶりの戴冠に成功していた。今季のトップリーグを15戦全勝で終えた2日後に再始動し、こう言い切る。 「相手が大学生だという考えは、一切、持たずにいきます。日本選手権に出場するチームのひとつとしてリスペクトして、100パーセント、スマッシュするだけです」 学生が最後の夢を叶えるにせよ、社会人王者が現実を示すにせよ、細部には激しいコンペティションが見え隠れするだろう。14時5分、キックオフ。 (文責・向風見也/ラグビーライター)