新日本酒紀行「出世城」
● ハレとケで飲まれ、出世にあやかる浜松の地酒 酒銘には地域を代表するものが多く、武将にちなむ「七本鎗」「副将軍」や、「富士山」「八海山」などの土地が浮かぶ名だ。静岡県浜松市には、浜松城の別名を酒銘にした「出世城」がある。若き日の徳川家康が築城後に居城とし、後に将軍に上り詰めた縁起の良い城で、あやかって飲む人が多く、市内で9割が消費される。醸造元の浜松酒造は、2015年に平喜に経営をバトンタッチし、浜松出身の若手、和久田健吾さんが21年から杜氏を務める。 【写真】「酒造りのこだわり」はこちら! 東京農業大学で微生物を研究した和久田さんは、10年に埼玉県の石井酒造に入社。杜氏を務めたが、地元で酒造りがしたく、17年に平喜グループの静岡平喜酒造の蔵人に。そして浜松酒造の杜氏に抜擢された。「仕込み水は硬度0の超軟水で、酒は優しい味に仕上がります」と和久田さん。目指すのは飲みやすさで、晩酌の定番の純米酒は素直にするりと飲める。また、酒の味を分かりやすく一言で表し、純米大吟醸は「ふくよかだに」、大吟醸は、「芳醇だに」、純米吟醸は「シャープだに」、純米酒は「コクあるに」と浜松弁で紹介。 実は浜松には、日本一日本酒を飲む祭りがGWにある。450余年の歴史を持つ初子を祝う浜松まつりで、昼は凧揚げ合戦、夜は御殿屋台の引き回しがあり、一日中盛り上がる。そのときに欠かせないのが四斗樽だ。今は上げ底にされた見せかけ樽が多いが、40升入る四斗樽が主流。そんな筋金入りの日本酒好きが集う町のハレとケで愛され、出世運を上げる酒に尽力する。
(酒食ジャーナリスト 山本洋子) ※週刊ダイヤモンド2024年12月21日号より転載
山本洋子