台風10号はなぜ予報より勢力が弱まった? 「発表が大げさだった」で片付けてはいけない理由
気象庁は16日、特別警報級で九州地方に接近した台風10号が予想より早く勢力が弱まった要因を検証した結果、東シナ海から乾燥した空気が流入したことなどが大きく影響したと考えられる、と発表した。予報より雨量が少なかったことや、高潮となった地点が少なくなった原因は、台風が予報より速い速度で九州の西海上を北上したことなどがあるという。 台風は海から放出される莫大な水蒸気をエネルギー源とするが、気象庁によると、東シナ海から乾燥空気が流入したことで海からの水蒸気の放出が抑えられたという。しかし、予報のモデルでは、この乾燥空気の流入が十分に再現できていなかったため、台風は勢力を維持したまま北上すると予想していたという。 また、黄海から東シナ海で海面水温が低かったことも検証したところ、実際より台風の発達を早く止める効果があったこともわかった。ただ、海面水温の低さが台風の発達を抑制した効果は、乾燥空気の流入と比べると限定的だったという。 このほか、宮崎県の一部ではほぼ予想通りの雨が降ったものの、大雨となった地域は限定的で、西日本を中心とした雨量が予想よりも低かったことについても検証した。その結果、大陸の東岸の気圧の谷が深まり、この気圧の谷を回る北向きの空気の流れに乗って台風が加速したため、強い雨の時間が長時間続かなかったことなどが分かったという。この気圧の谷も事前にはしっかりと予想できておらず、台風の北上が遅れる予想だったという。台風の北上スピードが速くなったことで、台風による潮位の上昇と満潮時刻のピークがずれたことで、高潮が発生する地点も少なくなった。
非常に複雑な気象現象である台風
気象庁の田中信行・アジア太平洋気象防災センター所長は「台風は非常に複雑な気象現象。わずかな環境の変化で、予測の精度は変わってしまうのが今の技術力で、10ヘクトパスカルの違いをピタリと当てるのは難しいが、精度向上を求めていきたい」と話す。 台風10号は、当初の予報より勢力が衰退する方向に進んだが、台風の強度を正確に予測することは難しいため、予報より勢力を強める方向に進むことも当然ありうる。田中所長は「技術力の改善は大きな課題だが、一方で限界があることを踏まえつつ、気象庁予報課が持っているイメージをしっかりと伝えることにもしっかりと取り組んでいく」と説明している。 気象庁は可能な範囲で、その時々に最も確度の高い予報をしている。次の台風災害から身を守るためにも、台風10号に関する気象庁の発表を単純に「大げさだった」と片付けないようにしたい。