「何かあったら責任もてないから」先天性の心臓異常、大人になっても職場が「壁」理解得られず孤立 医療進み、今や95%が成人に
▽同じ土俵か、支えてもらうか こうした患者が働く上での悩みを解決するため、ウェブサイト「はとらく」は患者に向いている仕事や、転職エージェントを使う上でのポイントに関する情報を提供している。運営する秋山典男さん(32)も、先天性心疾患がある。 秋山さんによると、職場に定着するためには、同僚に症状を伝え、必要な配慮を知ってもらう姿勢が大切だ。患者の中には「健常者と同じ土俵で働きたい」という思いと「障害者として支えられたい」という思いのはざまで、職場への周知に葛藤を抱える声も多いのだという。 「全国心臓病の子どもを守る会」の調査によると、「自らの障害を上司に伝えている」と答えた患者の割合は半数に過ぎず、同僚に伝えている割合となると約35%まで下がった。 秋山さんは、患者側ができる工夫について提案する。 「病気の周知を無理強いすることはできないが、内部障害のケースは伝えないと周りに状況が分かってもらえず、職場定着への支障になる。入社の際に人事担当に障害の内容を伝えるだけで、それ以降の周知が不十分な場合も多い。異動によって同僚が入れ替わる度に、必要な配慮をまとめた書面を見せて理解してもらう、といった対応が大切だ」
▽増える就労支援のニーズ 患者が働く上で、周囲に求められる支援はどのようなものか。秋山さんは指摘する。「行政による就労支援は、精神障害や知的障害の人向けが多い。先天性心疾患は比較的新しいテーマで、支援は手薄なままになっている」。行政職員にもノウハウが蓄積されていないため、仕事の相談をしても対応してもらえなかった、という声が多いのだという。 先天性心疾患患者の就労を研究する横浜市立大の落合亮太准教授は、まずは患者自身が心臓の状況を理解し、働く上での限界を把握してもらう取り組みが必要だと指摘する。患者の中には自分自身の健康状態に関する理解が不十分で、症状が比較的軽いと定期検診に行かなくなり、体調を崩して仕事を休むケースが少なくないという。落合准教授は話す。「子どものころから心臓病の場合、保護者が理解している一方で、本人は詳しい説明を受けていないことも多い。社会に出る際にはきちんと理解してもらう必要があり、医療機関が本人に説明する機会を設けることをルール化するといった対応が求められる」