「何かあったら責任もてないから」先天性の心臓異常、大人になっても職場が「壁」理解得られず孤立 医療進み、今や95%が成人に
さらに新入社員が増えるたび、自身のことを説明する機会を自ら作らねばならない。理解を得るのが徐々に難しくなっていき、詳しい症状を伝えられないまま、いつのまにか「心臓病の人」という評判が一人歩きするようになった。 同僚の仕事を助けようとしても「何かあったら責任が持てない」と断られ、職場で孤立。結局、1年で退職せざるを得なくなった。 現在は、自分のペースで働けるフリーライターとして働く。体調面での不安は減った一方、収入は不安定だ。工場に勤務していた当時を思い出す。「長く働くためには『こういう作業まではできる』と実演して理解してもらうなど、伝えるのを諦めない姿勢が大事だった」 一方で自分のような患者が働くためには、雇用主による工夫も必要と感じる。例えば、定期健診の際は休みやすくする、新入社員が増えた際はどこまで働けるかを理解してもらう機会を設ける―などが考えられる。 ▽「サボり癖がある」という誤解
日本成人先天性心疾患学会などによると、先天性心疾患を抱えて生まれ、成人となった患者は現在50万人程度に上るとされる。今後も年間約1万人のペースで増える見通しで、就労者数もそれに伴って増えている。しかし、一般社団法人「全国心臓病の子どもを守る会」によると、2人に1人は就職後5年未満で離職している。職場に定着する難しさが顕著だ。 理由の一つとして挙げられるのが「内部障害」だ。治療を経て日常生活を送れるようになっても、手術後の心臓に不具合が生じていないかを確認するため、生涯にわたって定期検診を受ける必要がある。心肺機能が低いため、長距離走や水泳といった激しい運動が制限されるだけでなく、日常生活でも健常者より疲れやすい。しかし、周りからはこうした特性が分かりづらく、雇用主としてもどこまで働かせても問題ないのか、どういった配慮をするべきなのかが把握しづらい。長期就労には職場の理解が欠かせないが、不十分だった場合は「サボり癖がある」といった誤解が生まれ、結果として離職につながりやすい。