【問う 時速194km交通死亡事故】大分地裁公判、検察側が懲役12年を求刑 「高速走行のわくわく感と引き換えに命を奪った」 弁護側は「危険運転成立せず」と主張し結審
大分市で時速194キロで右折車に衝突して死亡事故を起こしたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死)の罪に問われた被告の男(23)=同市=の裁判員裁判の論告求刑公判が15日、大分地裁(辛島靖崇裁判長)であり、検察側は「高速走行のわくわく感と引き換えに命を奪った。厳しい非難に値する」として懲役12年を求刑。弁護側は同罪が成立せず、過失運転致死罪にとどまると主張し、結審した。判決は28日。 公判の争点は、危険運転致死罪の対象となる▽進行を制御することが困難な高速度▽妨害目的の運転―の2類型に当たるかどうか。 検察側は計1時間半に及ぶ論告で、「時速194キロとは秒速54メートル。急ブレーキをかけて停止するまでの距離は265メートルに上る」と危険性を説明した。 現場の路面にわだちや凹凸があり、「ハンドルやブレーキ操作のわずかなミスで進路を逸脱しうる速度だった」と述べ、制御困難に該当すると主張。「交差点から右折車が来る可能性を分かっており、他の車の通行妨害を確実に認識していた」として、妨害目的も成立すると訴えた。 常習的に猛スピードを楽しんでいたと指摘し、「起こるべくして起こった事故。欲望や好奇心を満たすため、道路が自分のサーキット場であるかのように運転し、極めて自己中心的」と非難した。 被害者はシートベルトがちぎれて車外に投げ出され、両脚を粉砕骨折して命を失った。検察側は「遺族の処罰感情は峻烈」と語り、懲役7~10年が多い類似の裁判例よりも重い刑を求めた。予備的訴因の過失運転致死罪なら「懲役5年」が相当とした。 遺族の代理人弁護士は「暴走運転を撲滅するためにも厳しい処罰を下すべきだ」などと意見し、法定刑上限の懲役20年を求めた。 弁護側は最終弁論で、1時間にわたって危険運転致死罪の成立を否定した。 大分地検が当初、男を過失運転致死罪で起訴していた事実に言及。「広く報道された後、検察は危険運転致死罪に訴因を変更した。証拠が足りないと感じ、事故から3年3カ月もたって路面状況や車体の揺れを調べる実験をし、証拠を作ろうとした」と問題視した。 現場の路面は平たんとして「被告の車は車線を逸脱することなく、直進できていた」と強調。文献や裁判例に基づき「極端な高速度であっても、道路に沿って走行できた場合は、制御困難な高速度に該当しない」とする法解釈を示した。妨害目的は「割り込み、あおり運転が対象で、適用できない」と反論した。 事故は男の不注意で起きたとし、「当時は未成年。前科もなく、未熟だった」と述べ、過失運転致死罪による処罰を求めた。 男は最終陳述で「甘い考えで身勝手な行動をし、後悔の気持ちでいっぱい」と遺族に謝罪した。 <メモ> 事故は2021年2月9日午後11時過ぎ、大分市大在の県道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった被告の男は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。