新型エスカレード・スポーツ25th Anniversary Editionはまさにアメリカンな1台だ! キャデラックでしか味わえない世界とは
日本でエスカレードに乗る意味
2021年に登場した現行のエスカレードはトラック風味が残った先代とは異なり、足まわりを四輪独立懸架にすることなどで、乗り心地は徹底的にリファインされている。 唯一苦手なのがタウンスピードで舗装の荒れた箇所を通過する場面で、車体の基本骨格と上屋が別々に動くようなフレーム構造特有の感触を伝える。 ただし、静かな海を行く豪華客船のような高速道路での乗り心地を体験すると、「ちいせえことは気にすんなよ」という気持ちになる。エアサスと、「マグネティックライド」と、呼ぶ磁性を利用したダンパーの組み合わせが常に車両の姿勢と走行状況を監視して、乗り心地とハンドリング性能を最適化しているのだ。 アバタもエクボというか、高速クルーズを経験した後だと、市街地での少しバタつく感じもこのクルマでしか味わえない個性だと思えてくるから不思議だ。最近の高級車は誰が乗ってもすんなりスムーズに走るけれど、バタつかないようにハンドルを切るタイミングやブレーキの強弱を工夫していると、しだいに「このクルマは俺しか上手に運転できないんだ」という不思議な高揚感を感じるようになる。 高揚感といえば、基本的な構造をコルベットとおなじくする6.2リッターのV型8気筒エンジンにも胸が高ぶる。野太い音、地底から湧くマグマのようなトルク感。モーターの力を借りて低速域から滑らかに加速する、最近の高級車が身につけている洗練されたマナーはない。けれども、アクセルペダルを踏み込んでからワンテンポ遅れて加速するV8 のフィーリングは、筋肉にパワーを貯めて、一拍おいてからガッと加速する動物のようで、これはこれで人間の生理に合っている気がする。 2.7tの超ヘビー級の車体が、OHVのV8エンジンらしいドスの聞いた音とともに猛然と加速するフィーリングに、再び“物量作戦”という言葉が頭に浮かぶ。 “過ぎたるは及ばざるがごとし”とか、“足るを知る”という言葉を美徳として育ってきたけれど、エスカレードはそれだけが正しい価値観ではないことを教えてくれる。 “やりすぎたっていいし、これじゃ足りないともっと求めたっていい。でっかく生きろよ。” そんなメッセージを感じるから、このクルマに乗ると豊かな気持ちになる。日本でエスカレードに乗る意味は、確かに存在するのだ。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)