イスラエル首相、イギリス入国すれば逮捕の可能性 英首相官邸が示唆
イギリスの首相官邸は22日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が同国を訪問した場合、国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状に基づいて逮捕されると示唆した。 首相官邸の報道官は、個別の案件に関する具体的なコメントは避けたが、政府は「法的義務」を果たすつもりだと述べた。 ICCは21日、パレスチナ・ガザ地区での戦闘をめぐり、ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント前国防相、イスラム組織ハマスのモハメド・デイフ司令官に対し、戦争犯罪などの疑いで逮捕状を出した。 イギリスや日本を含む124カ国が、逮捕状の執行を義務付けるICC設置条約に署名している。 もしネタニヤフ首相がイギリスに入国した場合、拘束される可能性があるかとの質問に対し、英首相報道官は「仮定の話」には回答しないとコメントした。 その一方で、「政府はその法律に基づく義務、そしてもちろんその法的義務を履行することになる」とも述べた。 「その法律」とは、イギリスの「2001年国際刑事裁判所法」を指している。ICC設置条約締約を受けてイギリス国内法として整備された同法は、ICCが逮捕状を発行した場合、指定された閣僚が「適切な司法官にその要請を伝達しなければならない」と規定している。その司法官は、逮捕状がICCによって発行されたと判断した場合、「イギリス国内で逮捕状を執行する」とされている。 首相報道官は、同法が定める手続きに沿って政府は対応する方針で、「国内法および国際法に定められた法的義務を、常に順守する」と認めた。 一方で報道官は、どの閣僚がこの手続きに関わることになるのかは、明らかにしなかった。さらに、この件に関して政府が法務長官のハーマー卿に法的助言を求めているのかという質問には、答えなかった。 一般的に、世界各国からの逮捕状や身柄引き渡し請求は通常、対応の前に、基本的な確認を行うために内務省の特別チームに送られることになっている。 ICCに関するイギリスの法律では、容疑者の逮捕と「身柄引き渡し」の是非については、国内の裁判所が最終的な決定権を持つと定めている。 官邸報道官はまた、キア・スターマー首相にはなお、ネタニヤフ首相と会談する意思があるのかという質問に対し、「あらゆるレベルでイスラエルと対話を行うことは明らかに重要だ」と述べ、イスラエルを「さまざまな分野における重要なパートナー」と表現した。 ハーマー卿は先月、BBCのインタビューで、もしICCが逮捕状を発行した場合、自分の法的判断に政治的配慮が影響することは認めないと話していた。 「(ネタニヤフ氏への逮捕状について)私が助言するのはあくまでも、法律の分析に基づく法的な助言となる」と、法務長官は話した。 「政府がどういう対応を選ぶか、指図するのが司法官の仕事ではない。法律が何を求めているか、法律の内容は何か、法律がどこまで及ぶかについて、恐れずに法的助言を提供することだ。私はそうするつもりだ」と、ハーマー卿は話していた。 ■労働党政権で方針転換か 7月の総選挙で勝利した後、労働党の新政権は、ICCの逮捕状発行権に異議を唱えるという保守党政権の計画を破棄し、それは裁判官が決めるべき問題だと述べた。 ネタニヤフ氏への逮捕状が出された21日には、ICCの独立性を尊重し、ガザ地区での即時停戦を強く求めることに引き続き焦点を当てていくと首相官邸は述べた。 英最大野党・保守党のプリティ・パテル影の外相は、ICCはガザ地区におけるイスラエルの行動と昨年10月7日のハマスによる攻撃に「道徳的同等性」を見出していると批判した。 また、ICCの決定は「懸念すべき挑発的」なものだと述べ、「非難し、異議を唱える」よう政府に求めた。 逮捕状の実際的な効果は、ICC設置条約を締約した日本を含む124カ国がどう対応するかに左右される。イスラエルとアメリカは、ICCに加盟していない。 ジョー・バイデン米大統領は、ネタニヤフ首相への逮捕状は「とんでもない」ものだと述べ、イスラエルとハマスに「同等性」はないと指摘した。 一方、欧州では一部の国が、ICCの決定を尊重すると表明している。 イスラエルもハマスも、戦争犯罪や人道に対する罪の疑いを否定している。 ネタニヤフ首相はICCの決定を「反ユダヤ的」と非難。ハマスは、デイフ司令官への逮捕状には言及せずに、ネタニヤフ首相とガラント前国防相への逮捕状を歓迎した。 フランスのジャン=ヌーヴェル・バロ外相は先に、ICCの決定は「告発の公式化であり、決して判決ではない」とBBCに述べた。 BBCの政治番組「サンデー・ウィズ・ローラ・クンズバーグ」の中でバロ外相は、「我々は、悲惨な状況の中、ガザ地区の市民に人道的支援が届いていないという事実を、最も強い言葉で非難している」と話した。 一方で、「ICCが逮捕状を出しているハマス指導者たちとイスラエル政府を同等に扱うつもりは、まったくない」と述べた。 (英語記事 No 10 indicates Netanyahu faces arrest if he enters UK)
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