個室トイレ「3回ノック」が受け渡しの合図 闇バイト少年が明かす「普通の子」搾取の構図
このとき、少年が何より恐れたのは家族に危害が及ぶことだったという。個人情報が丸裸にされていることがその恐怖に現実味を帯びさせた。
犯罪グループが闇バイトを多用するのは、上下の指揮命令関係をたどれないようにするためだ。「匿名・流動型」(トクリュウ)であることが大前提で、顔をさらすリスクを冒してまで応募者の家に襲撃をかけるとは考えにくい。
もっとも上位の指示役からすれば、ここで相手が恐怖してくれればそれで良し。そうでなければ別の「捨て駒」を見つけるだけだ。ドスのきいた脅しに〝ビビってくれる〟相手こそが、彼らにとっての適格者といえる。
最近ではこうしたケースで、全国の警察が応募者を保護する措置も取っているが、当時の少年は警察を頼ることなど考えもしなかった。「やります」。反射的にそう答えていた。
逮捕に安堵「もうやらなくていい」
2月下旬、少年は埼玉県川口市にいた。約1週間ホテルに泊まり、指定する住宅にタクシーで向かうよう命じられた。スーツを着て、耳には指示を聞くためのワイヤレスイヤホンを装着。「お手続きのためキャッシュカードをお預かりします」。「銀行員」を装って住宅を訪れ、お年寄りからカードを受け取った。
コンビニのATMに到着すると、伝え聞いた暗証番号を打ち込んで30万~40万円を引き出し、商業施設のトイレの個室に入った。3回ノックが受け渡しの「合図」。ノックを返し、下の扉の隙間から現金を差し出した。
こうした「受け子」や「出し子」に東京や埼玉で10回以上関わった。だまし取った総額は1千万円を超え、自分の口座には報酬として50万円が振り込まれた。
「もうできません」。イヤホンで消極的な言葉を吐こうものなら、すかさず「殺すぞ」とすごまれた。
この時点でも、罪悪感より、個人情報を握られている恐怖が勝った。言うことを聞かなければ殺される、と本気で信じていた。3月、待機場所として指定された漫画喫茶に戻ったところを警察官に囲まれ、逮捕された。「もうやらなくていいんだ」。ほっとしている自分がいた。