LNG産出国による転売制限は撤廃を 日本ガス協会が政府に働きかけを要望
液化天然ガス(LNG)の輸入時に産出国から課される他国への転売制限が日本のLNG安定調達を妨げているとして、国内のエネルギー業界が、産出国に制限撤廃を働きかけるよう政府に求めている。エネルギー需要の拡大が予想される中で原子力発電所の再稼働は進んでおらず、二酸化炭素の排出量が比較的少ないLNGは重要な燃料だ。年内に素案をまとめる「第7次エネルギー基本計画」に政府が対応を明記するよう求めている。 日本ガス協会の内田高史会長は10月の定例記者会見で、基本計画の策定を巡り「LNGの長期安定的確保に向けた資源外交、調達環境の整備などについて支援をお願いしたい」と述べた。天然ガスをエネルギーの安定供給と脱炭素実現の「最有力な手段」として位置付けることも求めた。 念頭にあるのが、LNGを運ぶ船の目的地(仕向け地)を制限する「仕向け地条項」だ。買い主が別の国に売るのを制限することで、将来買い主のLNGが余って転売した場合に起きる価格競争を防ぐ狙いがある。産出国が開発にかかった投資を回収するための商習慣だ。ただ、買い主は、LNGの需要が低い時期にも在庫を抱え込まなくてはならなくなり、15年や20年といった長期間の契約はしにくくなる。 国内のガス会社各社は2020年代中に現在結んでいる産出国との長期契約が切れる。東京ガスは21年度、主要産出国であるカタールとの長期契約の更新を見送った。需給の見通しが不安定な中、転売制限がネックとなった。 エネルギー各社は現在、個別に制限撤廃・緩和に向けて産出国側と協議を進めている。ただ、エネルギー・金属鉱物資源機構の調査によると、30年度時点で契約数量のうち依然34%に転売制限がかかる見通しだ。 国内では今後、生成人工知能(AI)の拡大に伴い、データセンターや半導体工場を中心にエネルギーの需要は膨らむ方向だ。原発の再稼働が想定より進まない中、石炭よりも二酸化炭素の排出量が少ないLNGは主要な燃料となる。 政府は現在、エネルギー安全保障の観点からLNGの必要量に対し、どれだけ安定的に調達できるかなどを評価する指標の作成を検討しており、LNGの安定調達に向けた機運は高まっている。ガス業界関係者は「現状では長期契約の更新は難しい。制限が緩和されれば需要が少ない時期に成長が旺盛なアジアに転売するなど、柔軟な対応ができる」と期待を込めた。(織田淳嗣)