地震予測を進化させる注目のAI技術、「数年前に比べると、何光年分もの進歩」と研究者
画像処理する機械学習プログラムを活用し、膨大な地震観測データを解析
断層の迷宮が米国カリフォルニア州の地下にある。破壊的な地震がカリフォルニア州を襲うことは避けられないが、どこで、どの程度の揺れが起きるかを予測できれば、それに備えることはできる。 ギャラリー:最悪の事態に備える人々「プレッパー」米国で急増 起こりうる大惨事を軽減する最善の方法は、地下構造を詳細に把握し、すべての断層の場所を突きとめ、その変化を監視することだ。そのために、あらゆる揺れを記録する地震計が設置されているが、断層面への影響を推定するには多大な労力を要し、時に不正確だった。 米カリフォルニア工科大学の地球物理学の助教であるザッカリー・ロスは、2017年、膨大な数の画像を処理する機械学習プログラムを目にした。そのツールは人間にまねできないほど正確かつ迅速にそこに写っているさまざまな要素を識別し分類するもので、地震学にもこうしたツールを活用できないかと考えた。 彼が最初に目をつけたのは日常的に起きている微小な揺れだ。これらの揺れは無害かもしれないが、見過ごしていいものでもない。揺れによる小さな地震波が断層を通過するときに、断層の状態がわかるからだ。より不安定な、ひずみがたまった断層であれば、あるとき突然大きく動いて、大災害を起こす危険性がある。 ロスが率いるチームは、カリフォルニア州南部全域から研究者たちが本物の地震だと判定した揺れの波形を集め、それぞれの地震波のパターンのひな型を作成した。そして、アルゴリズムに地震計のデータを読み込ませ、ひな型と合致する、見逃しやすい波形を検出させた。 すると、2008年から17年に発生し、これまで見逃されていた200万回近い微小な地震がすぐに見つかった。これらのデータから、以前の地震調査では検出できなかった入り組んだ断層のネットワークが見えてきた。 だが難点もあった。このプログラムはまだ本格的なAIとは呼べないものだったため、既存のデータから学習した波形しか見つけられなかった。つまり、これまで記録されたことがない新しい波形は検出できないのだ。 そこでロスは自己学習プログラムを導入することにした。これは既存の情報を取り込んで、将来起きる事態を予測するソフトウェアで、この場合は多種多様な波形を予測する。ロスが開発した新しいモデルは、さまざまな見慣れない波形の地震をすぐに検出し、その後に人間の研究者が検証して、それらが実際に地震であることを確認できた。 「数年前に比べると、何光年分もの進歩です」とロスは言う。「今や人間の能力を超えるレベルですからね」。 今ではこの分野の多くの研究者が、ロスの開発した手法に慎重ながらも期待を寄せている。機械学習プログラムの精度が上がるにつれ、地球上の多くの地域で地殻変動を監視する体制ができるだろう。やがては地震の早期警戒システム、つまり地震波が到達する前に緊急のテキストメッセージを人々に送るプログラムの速度と精度も上がると思われる。今では災害を最小限に抑えるためにAIツールが次々と導入されている。今後は地震関連のツールもそこに加わるだろう。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版11月号の特集「AIが切り開く科学の未来」より抜粋。
文=ロビン・ジョージ・アンドリュース