事業再生研究機構がシンポジウム、廃業型私的整理への発言相次ぐ
5月25日、事業再生研究機構は「待ったなしの中小企業事業再生を考える」と題したシンポジウムを都内で開催した。事業再生に精通した弁護士や会計士、金融機関の担当者を中心にオンライン視聴も含め、300名以上が参加した。
倒産増加と監督指針の改正
冒頭、機構の代表理事を務める三森仁弁護士(あさひ法律事務所)は、2024年は制度融資の返済開始がピークを迎える点に触れた上で、「金融庁が監督指針を改正し、金融機関は事業再生や廃業への取り組み、外部機関との連携が求められている。企業を取り巻く環境は大きく変化していることを踏まえ、シンポジウムのタイトルを決めた」と挨拶した。 第1部では、再生実務の第一線に立つ弁護士や会計士が登壇。「中小企業事業再生等ガイドライン」、「中小企業活性化協議会手続」、「特定調停」、「経営者保証ガイドライン」の各スキームを説明した。事業再生ガイドラインの説明では、再生型、廃業型、再生型を模索したがその後廃業となったケースをそれぞれ1例ずつ紹介。いずれも簿価と実態のバランスシートに乖離があったが、外部専門家が債務者と債権者の間を粘り強く取り持ち、第三者支援専門家による支援を得たうえで、計画を成立させたという。 再生実務における税務の注意点については、スキームごとの税務上の取扱いを比較すると、協議会手続の中小企業再生支援スキームは資産評価損を計上できる特徴があること等が紹介された。また、粉飾していた場合、法人税は更正の請求のために過年度損益修正損の決算処理が必要だが、消費税には「仮装経理の更正の請求」規定が存在せず、認められた場合は即時還付になるという。
私的整理での「計画前事業譲渡」の重要性
第2部では、窮境企業を想定して意見が交わされた。外部環境の変化が目まぐるしいなか、「計画前事業譲渡」を選択せざるを得ないケースが増えているとの認識が共有された。宮原一東弁護士(桜通り法律事務所)は、「廃業型私的整理では、時間の経過とともに手元資金が失われるので早期の譲渡が関係者全員にとって望ましいこともある。(計画前事業譲渡に)必要性・合理性がある、対象債権者に丁寧に説明しており異議がない、弁済計画策定時に清算価値を上回る配当が見込める、第三者支援専門家が上記について確認している、などの要件を満たす場合は、計画成立前でも事業譲渡が許容できるのではないか」との見解を示した。 また、東邦銀行で総合融資部長などを務めた矢吹光一氏(とうほう地域総合研究所・理事長)は、「金融機関としては事業を残すこと自体に異論はない。対価の妥当性や適切性、回収の公正性や透明性の確保が重要で、これらをクリア出来ると同意しやすい」と指摘した。そのうえで、「公租公課(の滞納)が積み上がるなかで、破産、事業の破たん処理が増加しているのは非常に残念だ」と述べた。 コーディネーターを務めた四十山千代子弁護士(アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業)は、「今回の監督指針の改正は、金融機関に求められるデットガバナンスの最終章だ」と述べ、取り組み加速へ期待を示した。 シンポジウムの内容は書籍化される予定。 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年6月6日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)