杉咲花×若葉竜也『アンメット』7話。豚足、開店チラシ…ミヤビが感じる日常の美しさ
三瓶のかすかな反応がミヤビへの思いを表す
ミヤビたち行きつけの居酒屋の味つけが濃くなったことをきっかけに、店主・高美(小市慢太郎)の脳に髄膜腫があることが発覚。非常に難易度の高い手術を受けねばならず、嗅覚が失われるおそれがある。最初こそ「(嗅覚なんて)とってしまってもいい」と強がる高美だが、手術直前、かつお出汁の匂いをかいで厳しい修行時代や店を開いたときのことを思い出し、「匂いは全てや」「ちょっとでもいいから残してくれ」とミヤビと三瓶に懇願する。ミヤビは記憶が人に与えるものをまざまざと見せつけられた形だ。 そんな高美の姿を見た後、川沿いの道を三瓶と二人で歩きながら、「何か、季節とか、町並みとか。変化するものをちゃんと感じられると、昨日と今日は繋がってるんだなあってうれしくなります」というミヤビ。その言葉を受け止める三瓶は表情の変化をほとんど見せないが、ミヤビへの思いは伝わってくる。それはたとえば、「季節とか」「町並みとか」に細かく「うん」と相づちを打つ様子。「三瓶先生、頼っていいですか」と言われ、声を出さずに頷く様子。「今回の手術では、川内先生の力が必要です。一緒に戦いましょう」と言ったときの、ほんの少しあがった口角。三瓶のリアクションがささやかであればあるほど、そんな会話を重ねる瞬間の大切さが、観る者に届く。 今回、7話放送の真っ最中にJアラートが発令され、ドラマが中断された。TVerで最後までドラマを追いながら、改めてこの回で描かれた日常の美しさと貴重さを思わずにはいられなかった。
ミヤビを取り巻くチームの魅力
高美の麻酔が効くまでみんなで交わす会話。その内容の他愛のなさと、テンポのよさ。高美がいつもカウンターごしに聞いているような会話をすることで、彼を安心させようとしていたのだろう。その直後の手術の緊迫感もあわせて、5話で星前が目指した「全科専門医レベル」をチーム医療で実現しているこの病院のすばらしさが伝わってきた。 三瓶がアイスコーヒーを頼んだだけなのに、そこに抹茶パウダーを振り続けるカフェの店員は映画監督の今泉力哉だった。『愛がなんだ』(2018)以降、今泉作品に多数出演している若葉。若葉の映画初主演作『街の上で』(2021)のメガホンをとったのも今泉監督だ。若葉の魅力をもっとも知る監督の一人と言えるかもしれない。若葉ファンに対するちょっとしたお楽しみシーンになっていたし、あの店員ならばあんなことをするかもしれないという説得力もあった。 ミヤビと食事を共にした麻衣(生田絵梨花)。カーペットをきれいにする動画をミヤビが好んでいることを麻衣が知っている、という1エピソードで本当に仲よくしていたのだろうと思わせる具合が絶妙! そんな麻衣はラストで綾野(岡山天音)に婚約解消を申し出る。院長・西島(酒向芳)が綾野の父の病院を乗っ取る計画であることを知ったからだろう。二人の行く末がどうなるかも気になる。薬の量を増やした弊害が出てきたことで、綾野は大迫(井浦新)を疑ったことを謝っていたが、大迫を全面的に信頼してもよいものだろうか。さまざまな思惑が絡まった状態で、ドラマは終盤に向かっている。 ●番組情報 『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ) 脚本:篠﨑絵里子 原作:子鹿ゆずる(作)大槻閑人(作画)『アンメットーある脳外科医の日記ー』(講談社『モーニング』連載) 演出:Yuki Saito、本橋圭太 出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花 他 プロデューサー:米田孝、本郷達也 主題歌:あいみょん『会いに行くのに』 FOD、Netflixにて全話配信中(有料) ●釣木文恵 つるき・ふみえ/ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 ●オカヤイヅミ 漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。この2作品で第26回手塚治虫文化賞を受賞。趣味は自炊。