【特集】シナリオライターが遊ぶ『TUNIC』―キュートなキツネの大冒険、発見と驚きに満ちたミステリーアイランド
ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第11回は『TUNIC』を取り上げます。 【画像全8枚】 キツネの子を操作して、モンスターだらけの島を攻略していくアクションRPG、それが『TUNIC』です。クォータービュー視点で、剣と盾を構え、爆弾を投げたり、ポーションを飲んだりしながら敵を倒していきましょう。2Dゼルダシリーズへの強い憧憬が感じられるなかに、ソウルライクの要素も混ざった作品です。 と、これだけなら正直言って大量のインディーゲームと大差ありません。本作を体験した多くの方々が、序盤においては「なぜこれほど高く評価されているのだろう?」と首をかしげたのではないでしょうか。 それもそのはずです。このゲームを唯一無二の傑作たらしめているのは、その独特な謎解きにあります。そして、その謎解きを成立させているのは、ゲーム内で入手できる説明書なのです。 ゲームを進めていくと説明書の断片が手に入り、自動でソートされて、いつでも見られるようになっていきます。回避やブロックの手段から、敵の種類、これからどう進めていけばいいかまで、説明書は事細かに教えてくれます。ほとんどの言葉は異世界の文字で書かれていますが、言語解読をする必要はなく、絵やデザインから大体のことを理解できるはずです。 そのまま手なりでゲームを進め、ボスを倒して当初の目的を果たしたところで、ほとんどのプレイヤーは「そこそこ良いゲームだったな~」とコントローラーを置くことでしょう。しかしながら、同時に強い違和感も覚えるはずです。これで終わりでいいのか、と。 プレイヤーの気持ちを見透かしたように、残りの説明書のページを集める導線が引かれます。モヤモヤした気持ちを解消するために、各地を駆けずり回ってページを集めていくわけですが、次第にプレイヤーは気付いていきます。今までの景色が、まったく違ったものに見えることに……。 幼い頃、説明書に落書きをして遊んでいたことはありませんか? あれは何のためにやっていたのでしょうか。ビデオゲームは電源を点けなければ始まらないし、クリアしたゲームならば、いくら説明書に工夫しても何かが増えたり、話が進んだりすることは絶対に有り得ません。 『TUNIC』は、そんな子どもの頃に思い描いていた「もう少しこの世界に浸っていたい」という気持ちに答えてくれるパズルゲームです。それは、一度終わった物語を描き直し、プログラムされた世界を拡張していく試みです。 昨今のゲームは、PCのディレクトリをいじったり、ARG(代替現実ゲーム)のように現実世界に物品を用意したりして、プレイヤーを多角的に驚かせようとしてきます。それらも決して悪い手法ではなく、どれもこれも面白いものだと思いますが、『TUNIC』は最小の仕掛けで最大の効果を発揮しているのです。 「困ったら説明書を見る」……恐らくこの世のほぼすべてのゲーマーが知っている常識でしょう。そして同時に、現代のゲーマーが忘れつつあることでもあります。 たったこれだけのことが、唯一の攻略の糸口であり、尚且つゲームプレイの面白さを根本から支えている作品が、他にあるでしょうか。 今のあなたが説明書に落書きして遊んでいたようなガキンチョだったとして、このゲームを遊び尽くし、最後の謎まで解き明かしたとき、どんなサプライズが待っていたら嬉しいですか? 誰に喜びを伝えたいですか? どんな風にストーリーが終わってほしいですか? 世界を探検して、そこに法則を見出し、工夫を凝らして攻略する、そしてそこで得た苦労や喜びを誰かに伝えていく……ゲームが教えてくれるだいじなことは、すべて『TUNIC』に詰まっています。
Game*Spark 各務都心
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