アカデミー賞総評:結果は順当、心に残るスピーチの数々も:第96回アカデミー賞
順調で、順当。今年のオスカー授賞式は、ハプニングもない代わりにサプライズもなく、良くも悪くもつつがなく終わった。そんな中でも、ピンクのスーツで歌って踊るライアン・ゴズリングは人々をすっかり魅了したし、日本人にとっては日本作品が2つ受賞するという嬉しい出来事もあった。今年の授賞式を振り返ってみる。(文:猿渡由紀) 【画像】大胆なドレス続々!第96回アカデミー賞授賞式 受賞結果はほぼ下馬評通り。このアワードシーズン、すべてを制覇してきたロバート・ダウニー・Jr(『オッペンハイマー』)の助演男優賞、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ(『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』)の助演女優賞受賞は間違いなしだったが、その通りに。オスカー監督賞と一致することがほとんどの全米監督組合賞(DGA)を受賞していたクリストファー・ノーラン(『オッペンハイマー』)の監督賞、オスカー作品賞予想において最も頼れる指標といえる全米プロデューサー組合賞(PGA)を獲っていた『オッペンハイマー』の作品賞受賞も、裏切られなかった。
主演男優部門は、キリアン・マーフィ(『オッペンハイマー』)とポール・ジアマッティ(『ホールドオーバーズ~』)が競り合う中、オスカーが近づくにつれ、作品自体に勢いのあるマーフィが力を増してきた感があった。実際、受賞に至ったのはマーフィ。一方、リリー・グラッドストーン(『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』)とエマ・ストーン(『哀れなるものたち』)の“ストーン対決”だった主演女優部門は、史上初のネイティブ・アメリカン女優受賞となることからグラッドストーンを有力視する向きが強かったものの、投票者は、出演時間が圧倒的に多く、大胆な役に体当たりしたストーンを選んだ。
これら受賞者のスピーチは、どれもなかなか良かったと言える。これまでの授賞式でずっと事前に書いた紙を読んできたランドルフは、今回初めてマイクの前で涙ながらにスピーチ。逆に、どん底も経験し、乗り越えて初のオスカーを掴んだダウニー・Jrは、意外にも冷静で、冒頭から「僕のひどい子供時代とアカデミーに感謝します。その順番で」と言って、観客を笑わせた。過去に依存症で刑務所入りをした過去を持つ彼は、保険をかけられない俳優になってしまった時期に一生懸命頑張ってくれた弁護士にも、明るく感謝の言葉を送っている。名前が呼ばれて舞台に上がる時、ドレスの後ろの形が崩れてしまったストーンが、感極まったスピーチの最後、「後ろを見ないでくださいね」と言って去っていったのもほほ笑ましかった。