《国交省vs.トヨタ》複雑すぎるクルマの「認証制度」が、これまで問題視されなかったシンプルな理由
『《国交省vs.トヨタ》攻防の「内幕」すべて明かす……なぜ認証試験で「不正」は起こったのか』から続く。 【写真で確認】車のナンバープレートで絶対に「使ってはいけない」4つの平仮名
米国には国の認証制度がない
「認証試験のプロセスの全体像を把握している人は一人もいない」――3日の記者会見でトヨタの豊田章男会長がぽろりと本音を漏らしたが、認証試験の内容は複雑怪奇なものと言われている。 トヨタ以外のメーカーのある幹部も「法規で明確に定まっていない内容もあり、そうした点は国交省と話し合いながら決める」と説明する。行政側の解釈が入り込む余地がかなりあると見られる。 そして、「認証試験制度の一部には、開発の実態や時代の流れに合っていないものもある」というのが企業側の本音だ。 この点については'17年に日産自動車で起こった、無資格者が完成車を検査した問題が如実に物語っている。「型式指定」を受けるためには資格者が完成車を検査しなければならないが、日産では無資格者が行っていた。 この問題で日産は国内向け自動車の生産を止めたが、同じ製造ラインで造る輸出車の生産は止めなかった。日本のメーカーが収益源とする米国には、国による認証制度がなく、メーカーの責任で安全基準に対応する、「自己認証」で対応している。 だから同じ車でも、国内向けは出荷停止となり海外向けはOKだった。この無資格者検査の結果、日産車の品質に問題や欠陥があったことは報告されていない。
新規参入を阻む障壁か
これから車の「スマホ化」が加速し、ネットワークの中に位置づけられるようになると、ソフトウエアの量が増大し、開発プロセスも激変する。 たとえば、テスラ車のように無線通信を使ってソフトウエアをアップデートする技術(OTA)が進化しているが、「アップデートすれば国交省から『もう一度型式指定を取れ』と言われそう。そうした点も日本企業がOTA技術で遅れている要因の一つ」と見る自動車メーカーの技術者もいる。 日本は法治国家である以上、法律は絶対に守るべきだと思う。もし、その法に問題があるならば、業界団体などを使って正式に大きな声を上げるべきだろう。 しかし、これまで問題視されてこなかったのは、この複雑怪奇な認証制度が新規参入を阻む障壁になっていたからだと筆者は見ている。 実際、米国ではテスラなど新興自動車メーカーが生まれたのに対し、日本では自動車製造への本格的な参入がほとんどない。 ただ、技術の進化が早い時代に、認証制度が現行のままでは、再び不祥事を誘発する可能性がある。 「週刊現代」2024年6月22日号より
井上 久男(ジャーナリスト)/週刊現代(講談社)