【森永卓郎氏が提言】老後不安克服のために考えるべきは「いまある収入で暮らし、死ぬまでに“使い切る”」こと 「月15万円で豊かな暮らしは実現できる」
体の衰え、老後の資金、家族や親族との関係まで、歳を重ねると数々の「人生の壁」が立ちはだかる。この壁をどうやって乗り越えればいいのか──。誰もが悩む問いに、「がん」を含む人生の苦楽を知り尽くす経済アナリスト・森永卓郎氏がアドバイスする。 【写真】「食費は半分以下になりました」 自宅近くに畑を借りて野菜を作る森永卓郎さん
* * * 老後資金が不安で仕方ないという声をあちこちで聞きます。 政府が「貯蓄から投資へ」と声高に唱えて、資産形成を煽りに煽っている。そのうえ「老後資産は2000万円必要」といった試算を出されたら不安が増すのは当然です。 しかし、本当にそんなにお金が必要なのか。投資をするのが正しいことなのか。甚だ疑問です。 金融市場の本質はギャンブルです。安く買って高く売れば儲かりますが、そうでない人は損をする。損をしたら損失を取り返そうとさらに資金をつぎ込んで、最後は底を尽く。こうした「投資依存症」の人は、2024年1月に始まった新NISAをきっかけに確実に増えているように感じます。 いまは人類史上最大のバブル相場の真っ只中で、金融商品が異様に高騰している。近いうちに暴落するのは必然です。 そもそも日本は高齢世帯の預貯金が溢れている現実があります。内閣府が8月に発表した経済財政白書によれば、金融資産のピークは60~64歳で平均1838万円。その後徐々に減っていくものの、85歳を過ぎても平均で1500万円を超す金融資産を持っている。 これは老後資産として「過剰なお金」を貯め込んだ末、ほとんど使わずに死んでいくことを意味しています。そして遺されたお金が、法定相続人の間で骨肉の争いとなる「争族」の原因になるケースも多い。遺産が1億円といった大金ではなく、数百万~1000万円程度のほうが争族になりやすいといわれています。
住まいを変えてみる
これから考えるべきは「お金を増やす」のではなく、いまある収入で暮らし、死ぬまでに「使い切る」ことなのです。 たとえ多額の貯蓄がなくても、生活費を公的年金収入の範囲内に収めることができればなんの問題もありません。物価高が叫ばれる昨今ですが、日本人の年金受給額(夫婦総額)は平均月22万円。この額で生活していくことは十分に可能です。 歳を重ねるとともに持病などが増えるため、医療費の負担に不安を持つ人も多いようですが、日本には高額療養費制度があるので心配は無用です。自己負担となる医療費の上限額は一般的な収入(年収156万~370万円)の世帯で月5万7600円。住民税非課税世帯なら月2万4600円か1万5000円です。 私の場合は2023年12月にがんが発覚し、保険適用外の自由診療を交えて月に100万円以上の医療費が出ていますが、一方で保険適用下の標準治療だけでも十分に戦えるという実感はある。それなら医療費のほとんどが高額療養費制度など公的補助でカバーされるはずです。 そのうえで、住まいを変えることが最もラクに収入内で暮らすコツです。 いま私は「トカイナカ」生活を実践しています。埼玉県所沢市の最寄り駅から徒歩15分以上かかるところに住んでいますが、戸建てやマンションの価格、賃貸の家賃は都心の10分の1程度。物価も都心より3割くらい安い。近隣の農家が作った農作物を直接安価に買うこともできます。 私自身、自宅近くに畑を借りて20種類くらいの野菜を作っていて、家族が食べる分は自給自足。食費は半分以下になりました。その結果、生活費は月10万円程度に収まっています。トカイナカ生活なら月22万円どころか、月15万円程度の年金収入でも問題なく生きていけるはずです。 お金のかからない趣味を持っていればなおよし。老後資金の不安から解放され、充実の生活を送る術はたくさんあるのです。 【プロフィール】 森永卓郎(もりなが・たくろう)/1957年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト。獨協大学経済学部教授。著書に『ザイム真理教』『書いてはいけない』『官僚生態図鑑』など。 ※週刊ポスト2025年1月3・10日号