慶應卒なのに「職歴なし45歳」…バイト面接では学歴を疑われる芸人が、虚栄心と嫉妬にまみれた男女の顛末に思うこと(レビュー)
そんな社会のレールからドロップアウトした半妖怪の僕でも、この小説は響いた。他人と比較して得られる安心や幸せが、いかにもろいものか。SNSが氾濫するいまやからこそ、いったん立ち止まって考えやなあかんことがある。 これは東京に住んでる人、今年30歳を迎える人、東京で挫折した人にかぎった話じゃない。すべてはわかりやすい記号として書かれてるだけで、地方であろうが外国であろうが同じ悩みや苦しみを抱えてる人がいる。 東京タワーの光がまばゆければまばゆいほど、より深く濃い影が落ちる。この小説には、そのコントラストが余すところなく打ち出されてる。 この作品は、自己肯定感を映し出す鏡。 「エモい」は「もののあはれ」とほぼ同義やという記事を目にしたことがある。これは、時代が変わっても人の感覚はそんなに変わらへんというあらわれ。昔の人もおんなじような環境で、おんなじようなことを感じてたんやろうなと思うと、自分はこの小説を「いとをかし」と楽しめる人間でありたいと思った。 [レビュアー]ピストジャム(芸人) 1978年9月10日生まれ。京都府木津川市出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。大学卒業後、こがけんを誘って吉本興業の養成所へ入所(東京NSC7期生)。2002年4月にデビューし、「マスターピース」「ワンドロップ」など、いくつかのコンビを経て、ピン芸人となる。アイドルのラジオ番組 MC などでも活躍。下北沢カレーアンバサダー。かまぼこ板アート芸人。2022年『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』(新潮社)を発売。 協力:吉本興業 第一芸人文芸部 Book Bang編集部 新潮社
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