ゴーギャンが模索したお金を必要としない人生は“タヒチ”にあったのか?
ゴーギャンの人生を感情的、映像的に描きたかった
Q:映画では、最初にタヒチを訪れた1891年から1893年に亡くなるところまでが描かれ、それまでのゴーギャンについては特別説明をしていません。観客の知性に任せるということだと思いますが、あなたは観客をどのくらい信頼されていますか? デルック監督:この映画を撮るにあたって、なるべく事実に忠実でありたいと思い、ゴーギャンが書いた紀行エッセイ『ノア・ノア(ノア・ノア―タヒチ紀行)』(岩波書店)をベースにしています。その中で、特に私が感銘を受けたエッセンシャルな部分、パリに呼び寄せた家族との決別(家族は妻の実家のあるデンマークで暮らしていた)や、タヒチでの妻テフラ(モデルとして多くの絵にその姿が描かれている)との出会い、原始的な文明やタアロアなど神々との邂逅(かいこう)、理想と現実がいかに異なり、そのことが作品作りにどう影響したのかなどを拾い、脚本に反映させました。ゴーギャンはこういう人だったと教育的に描くつもりはなく、彼の人生や人格が、様々な出会いによってどう変わっていったのか、感情的、映像的に描きたかった。観客がどこまでストーリー以外のことを知っているのか、または想像で補ってくれるのかは分かりません。とにかく映像の美しさにどっぷり浸かり、想像を膨らませ、理解していただければいいと思っています。そうしてもらえれば嬉しいです。 ◇ ◇ 最後の質問は、考える余地がないほど情報を詰め込んで(または台詞にして)しまう、今の日本映画の在り方を考えてのもの。その点、『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』には細かな説明はほとんどない。デルック監督のいうように、タヒチの自然の中にどっぷり身を浸し、またゴーギャンの絵画そのものの構図で撮影されたスクリーンを漂いながら、極彩色の楽園を味わえばいいのだ。 映画を見た後、本物を見られるおまけ情報も。2月14日から5月7日まで、東京・国立新美術館「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」で、ゴーギャンがタヒチで描いた「贈りもの」を見ることができる。 (取材・文:関口裕子)
『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』 2018年1月27日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次ロードショー 主演:ヴァンサン・カッセル、監督:エドゥアルド・デルック、 脚本:エドゥアルド・デルック、エチエンヌ・コマール、トマ・リルティ、撮影:ピエール・コットロー、音楽:ウォーレン・エリス 、2017年/ フランス/ 102分/カラー/原題:Gauguin Voyage de Tahiti、後援:タヒチ観光局 配給:プレシディオ