プレミア記念切手が最盛期の「2割以下」で購入可能に…趣味の王様「切手収集」はなぜ衰退してしまったのか
切手は堅苦しいデザインのほうが人気
なぜ、切手の人気が上がらないのか。切手は“小さな芸術品”と言われることがあるが、場所をとらないので保管しやすいメリットがある。最近ではアニメのキャラクターや、手紙に使ったら楽しそうなかわいいデザインも多い。Xでも「デザインがカワイイ」と切手がバズることもある。現在発行されている2円の普通切手などは、ウサギのデザインがかわいいとXで大人気だった。ところが、A氏は“逆にそれがよくない”と指摘する。 「これは誰か著名人が言っていたと思うのですが、切手が人気だったのは普通切手に仏像がデザインされていたような、堅苦しく、真面目な図案で発行されていた時代なんですよ。2000年以降、切手のデザインがかわいくなりましたし、ハート形だったり円形だったりと形も多様になりました。ところが、これは男性のコレクターに刺さらない。コインもそうだと思いますが、切手は女性のコレクターが本当に少ないのです」 また、郵政民営化以降、記念切手がとにかく乱発されすぎていることも問題だと、A氏は言う。コレクターも資金的に集めるのが大変になっているそうだ。そのせいか、毎年発行される切手をコンプリートするコレクターは少なくなり、「例えば、花のデザインの切手を集めるとか、特定の年代の切手に限って集めるとか、テーマに沿って集める人のほうが多いかもしれませんね」と、A氏が考察する。 コインは金や銀などの貴金属が使われていることもあるが、切手は紙だ。そのため、コインのような地金としての価値はない。しかも、裏面に糊がついているため、高温多湿な日本ではコインより保存が難しいというデメリットもある。こうした切手特有の事情も、富裕層にコレクションの対象として好まれない原因のようだ。
切手は安い! 集めるなら今!
切手コレクターが少なくなっているという話を書いてきたが、その一方で、こうした事情はこれからコレクションを始める人にとっては大きなメリットともいえる。何しろ、かつて数万円した切手が数千円で買えるほど値下がりしているのだ。ブームだった数十年前よりも“安い”のである。 「有名な記念切手“見返り美人”や“月に雁”は、最盛期には1枚1~3万円で取り引きされていたこともあります。現在はそれぞれ5000円以下で買えてしまうこともザラ。もちろん、保存状態によって価格は変わりますが、それでもかつてより値下がりして、入手しやすくなったのは確か。新しくコレクションを始めたい、もしくは子どもの頃に楽しんでいた蒐集を再開したいという人は今がチャンスです」 こうA氏が話すように、子どもの頃に憧れていても手に入らなかった切手が格安で入手できる可能性があるのだ。もっとも、コレクターが減っているせいで買い取り額は安く、記念切手を切手商に持ち込んでも額面以上で買い取ってもらえることはほぼない。売る側にとってのメリットは限りなく少ないので、注意したいところである。 少し話が脱線するが、一般的に、どんなコレクターズアイテムも未使用品のほうが高くなる。紙幣やコインは人の手に触れられていないものほどプレミアがつく。ところが、切手が面白いのは、必ずしも未使用のほうがレアとは言えないことだ。むしろ、使用済みのほうが未使用よりも価値があがっているケースが珍しくないのである。A氏が言う。 「1960年代の記念切手ブームの時代に発行された切手は、使わずにとっておかれたケースが多いのです。そのせいか、切手が封筒に貼られ、当時の消印が押された状態で残っているほうが珍しく、プレミアがついたりします。それこそが切手の奥深さなんですよ」