「MOTアニュアル2024 こうふくのしま」(東京都現代美術館)開幕レポート。複雑な現実と見えざるつながり
1999年より東京都現代美術館 で開催されてきた、現代美術に新たな視点をもたらすグループ展「MOTアニュアル」。その第20回となる「MOTアニュアル2024 こうふくのしま」が開幕した。会期は2025年3月30日まで。 本展では、清水裕貴、川田知志、臼井良平、庄司朝美の4名の作家の最新作が展示され、それぞれが現実の複雑さや多義性をどのように視覚的に表現しているのかを探る。担当学芸員は楠本愛である。 展覧会の副題にある「しま(島)」は、4名の作家が拠点を置く「日本列島」の地理的条件に対する再定義を含んでおり、展示される作品群もそのテーマを反映した内容となっている。また、ここで言う「島」とは、従来の「海に浮かぶ閉じられた地形」ではなく、「海底ではほかの大陸や島とつながっている開かれた地形」としてとらえ、私たちの目に見える世界とその背後にある見えざるつながりを意識させる。 清水裕貴の作品は、水にまつわる土地や歴史、伝承などをリサーチし、写真とテキストを組み合わせることで、フィクショナルな世界をつくり上げている。本展では《星の回廊》というタイトルで、中国の大連、稲毛などの海岸の写真や東京湾の風景が展示される。また、大連の海で腐食させたフィルムを用いてプリントした写真も展示され、物語の朗読やテキストも加わり、時間と記憶の多層性を感じさせる。 大連に焦点を当てたのは、清水が稲毛にある神谷傳兵衛稲毛別荘との出会いがきっかけだったという。この別荘はかつて海に面していたが、埋め立て工事によってその風景が変わり、清水はこのような土地の変遷に深い影響を受けた。また、稲毛という土地は、大日本帝国の陸軍と深い関係があり、大連の海岸にも多くの言い伝えや、その町を建設した日本人たちの歴史と絡み合っている。歴史や人々が交錯するこの場所で重なり合ったものを作品に反映させている。 川田知志は、伝統的なフレスコ技法を軸とする壁画の制作・解体・移設を通じ、日本社会の基盤を支える構造や仕組みとその変化をとらえようとする。本展では、郊外の風景をモチーフに描いた全長約50メートルの壁画が展示され、1月下旬まで展示室での制作が続くという。加えて、これまで使ってきた素材やフレスコ壁画を描いている工程を記録した映像も紹介されている。
文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)