「ヴェノム」に続く「クレイヴン・ザ・ハンター」、スパイダーマンの宿敵はこんども魅力的だ
ブラッド・ピット主演の異色作「ブレットトレイン」(22年)でいかつい殺し屋を演じたアーロン・テイラー=ジョンソンが、バキバキの肉体全開で、文字通り獣のようなアクションを披露している。 「クレイヴン・ザ・ハンター」(13日公開)は、「ヴェノム」に続き、「スパイダーマン」の宿敵を主人公にすえ、ダークなひねりが効いている。 ロシアの名家に生まれたクレイヴンは、父(ラッセル・クロウ)と出掛けたハンティンで、どう猛なライオンに襲われてしまう。瀕死(ひんし)の重傷を負う一方で、傷口から入った「ライオンの血」の影響で、並外れた「狩猟能力」を身に付ける。 映画はそんな誕生秘話にスポットを当てながら、密猟組織との闘い、彼を精神的に支える女性弁護士カリプソ(アリアナ・デボーズ)との出会いと共闘。そして、実は闇組織の長だった父との対決までを一気に畳み掛ける。 ライオンのように地を走り、ジャンプし、くらいつく。他のスーパーヒーローのように悠々と空を飛んだりしない分、視覚効果に依存する割合は低い。生身の勝負となる。そんな設定に対応して体を作り上げたジョンソンは、特に腕回りと胸のあたりの筋肉に説得力がある。 ビルをスイスイと登り、丘陵や荒れ地をさっそうと走る。当然、ワイヤの力を借りている部分はあるのだろうが、俊敏さにリアリティーがある。 金融サスペンス「マージン・コール」(11年)など、地に足のついた社会派作品で手腕を発揮してきたJ・C・チャンダー監督は「太陽の光やなだらかに起伏する丘。この映画で目にするものは、動き回るヒーローも背景もすべて本物です」と語る。 はだしでロンドンの街を疾走するシーンは、まさに獣に見える。足の裏は痛いはずだが、ジョンソンはそんなことをみじんも感じさせない。 「グラディエーター」から四半世紀を経たラッセル・クロウの貫禄が、ジョンソンの俊敏さと対照的だ。映画の軸となる見事な父子のコントラストだ。 いったい何が始まるのか? 思わず引き込まれるシベリア監獄の冒頭シーンから、か弱かった弟ディミトリ(フレッド・ヘッキンジャー)が変貌するラストまで、息もつかせない。全編に疾走感がある2時間7分だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)