自分のひとつの形としてクライミング小屋を作る|筆とまなざし#397
自分を奮い立たせ自分の生き方を模索していくための小屋作り
アトリエ小屋を作ってから15年経つ。東京から岐阜に引っ越してすぐに小屋作りに取り掛かり、使えるようになるまで数年かかった。できるだけ電動工具を使わない、全ての作業を自分ひとりで行なうなどさまざまな「決まりごと」を作ったこともあり、楽しい反面、とても骨の折れる作業だった。もう建物を作ることはないだろう。そう思っていたのだけれど、また新しい小屋を建てることに決めたのは、数日前のことである。 その小屋はクライミング小屋である。近くにクライミングジムがなく、いまは車で1時間30分ほどかけて愛知県のジムに行っているだが、一日仕事になってしまうため頻繁には出かけられない。天気が悪いと岩場へも行けないし、仕事が続くとクライミングをしない期間が長くなってしまう。これまで幾度となく近くにジムを作りたいと考えた。しかし営業ジムは経済面でも人材面でも大変で、とても自分には手に負えそうにない。これまでなんとか遠くのジムと岩場に通って登ってきたが、それもそろそろ潮時だ。そう思ったのは、ケガをして思うように登れなかったり、仕事続きでクライミングができない日が続き、ひさしぶりに登りにいって体の鈍り具合に愕然としたからだった。これからもクライミングを続けていくためには近くに人工壁が必要だ。講習もできたら一石二鳥である。 プライベートウォールを作るのは初めてではない。高校生のころは自宅の倉庫に小さな壁を作り毎日飽きることなく登っていたし、大学時代も四畳半の部屋を借りてクライミングルームにしていた。倉庫がないのなら建物ごと作ればいい。そう一念発起したのは、近くの材木屋が店をたたむため木材がタダで手に入るという話が舞い込んできたためである。これならかなり費用を抑えて建てられるはずだ。ふと思い浮かんだのは土壁作りの小屋。独特の丸くて柔らかいフォルムは昔からの憧れだった。できるだけ有機的な素材を使って作りたい。 なんだかまた骨の折れることに手を染めてしまった感が否めないのだが、自分を奮い立たせて、生き方を模索していくことがいまの自分に必要だと思ったのも、小屋を作ることに決めた大きな理由。与えられるものや情報のなかでなんとなくすぎていく毎日にどこか物足りなさを感じるようになっていた。自分が寄って立つ根本はなんだろう。小屋作りは、そのことに向き合う時間になるような気がしたのだった。 「自分探し」なんて、大学生がやることだと思っていた。けれどもじつはいくつになっても必要なことで、一生かけてやっていくことなのかもしれない。 クライミング小屋を、そんな自分のひとつの形として作ってみたいと思う。
PEAKS編集部