『宙わたる教室』は“人と繋がれる場所”の尊さを描く 孤独だった伊東蒼が3人目の部員に
科学部の新たなメンバーとなった佳純(伊東蒼)
そしてまた火星に一人取り残された気分でオポチュニティの孤独に想いを馳せる佳純に、藤竹は「オポテュニティの轍を孤独の象徴と捉える人もいるかもしれない。でも、僕には少しでも前に進もうって懸命に生きた証に思えるんですよ」と語りかける。佳純の傷も同じだ。消えたいくらい苦しい中で、生きるためにつけたもの。装備なしで息ができる場所を見つけて足を運び、その度につけたログもまた、佳純が懸命に生きてきたことを証明する轍だった。それがあったから藤竹も佐久間も彼女を見つけることができた。 男女関係なく不用意な接触はNGと木内(田中哲司)にきつく注意していた佐久間が、佳純の安否を確認した途端に迷わず抱きしめたのは、救えなかった命があるから。彼女が藤竹に「誰を救えて誰を救えないのか」「どれだけ経験を積んでも正解なんてまるでわからない」と葛藤を漏らしていたように、人ひとりにできること、手を差し伸べられる人数は限られている。だから、過酷な旅の途中でホッと一息つける場所は少しでも多いほうがいい。佳純が「火星の夕焼けはなぜ青いのか」というような同じ興味関心を持った人たちと集まり、新たなログを綴り始めたように、願わくば真耶も傷以外で人と繋がれる場所を見つけられたらいいなと思う。そしてオポチュニティのように寿命を全うするその日まで轍を伸ばし続け、最後は仲間に「お疲れ様でした」と讃えられる人生を歩めたらーー。 佳純が記録係に任命され、これで科学部は3人。正式な部活とする条件は整った。ラストで佳純の知識が岳人の発見やアンジェラの行動力と合わさって火星の青い夕焼けを再現してみせたように、ここから科学部も車輪を少しずつ増やして轍をどんどん伸ばしていくのだろう。
苫とり子