「さよなら」ジャガーのサルーン XF 250PSでラストラン(1) 高い一貫性 濃い一体感
抜群に美しいスタイリングだった4代目XJ
デイリーは中古車販売店を営む、プロの犯罪者であり詐欺師だった。愛すべき悪党の1人に数えられると思う。 彼が愛車にしたのが、ジャガーXJ。初期のマインダー・シリーズに登場したのは、1973年のXJ6 4.2シリーズIIだったが、途中からXJ シックスと、XJ ダブルシックスへ変わっている。兄弟モデルといえた、デイムラー・ソブリンのステアリングホイールも握った。 本来なら今回の試乗車も、2009年に発表された4代目XJがベターだったかもしれない。しかし、惜しいことに生産は5年前に終了している。 デザイナーのイアン・カラム氏は、エグゼクティブ・サルーンとして抜群に美しいスタイリングを生み出したが、新車での手配は既に叶わない。当時は、最も運転しやすい大型サルーンでもあった。 少々型破りな人物のデイリーは、贅沢を喜ぶ志向を持ち合わせていた。大変な仕事は部下へ頼み、ライベート・クラブで酒を傾け、高価な葉巻を嗜んだ。キャメルのコートを、心地よさそうに着こなした。 あいにく、現在のロンドン西部へ広がる住宅街に、贅沢を謳歌する余裕は感じられない。気前の良いジャガー・オーナーへ、意見を伺うことは難しいようだ。電動クロスオーバーの方が、2024年のこの景色には馴染むようにも思う。
運転しやすく快適で、体格の良い数名を乗せられる
ハマースミスでの取材を諦め、その北にあるシェパーズ・ブッシュ・エリアへ移動してみる。鉄道をくぐるアーチの下に存在することになっていた、デイリーの倉庫を探してみる。ところが、クロスフィットという、新エクササイズのスタジオになっていた。 怪しい物品を、こっそり保管しておく雰囲気とはまるで違う。ジャガーが似合うともいえないようだ。 さらに西へ足を伸ばし、サウスオール・ガスワークスを目的地にする。この辺りは庶民的なエリアで、工場も隣接していたはず。様々な人が暮らしているから、ジャガー愛好家も見つかるかもしれない。 その1人として思い浮かぶのが、ジャック・リーガン警部。もっとも、「ロンドン特捜隊スウィーニー」というテレビドラマに登場した主人公だけれど。彼が運転したのはフォードのパトカーだが、荒涼とした倉庫街を逃げるジャガーを執拗に追いかけていた。 「犯人は時速90マイル(約145km/h)で逃走中。命令がおりたので、ヒースロー空港の倉庫に悪党一味を閉じ込めます」。というやり取りで向かったのが、この場所だった。 犯人が乗っていたのは、スポーティな4ドアのジャガー。この設定には、ちゃんと理由があった。運転しやすく快適で、体格の良い数名の相方を乗せられ、逃走に充分な速さも備えていたからだ。 この続きは、ジャガーXF 250PSでラストラン(2)にて。
マット・プライヤー(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)