「子持ち様」論争の背景にある潮流 職場の助けあい文化に搾取される社員
「協力」「助けあい」という都合のいい言葉
職場では、メンバーそれぞれが自分に与えられた役割を果たしながら、成果を生みだしています。その過程では、当然、人と協力して助けあうことが必要不可欠です。 しかし、「協力」「助けあい」という言葉のもとに、職場には釈然としない「名もなきフォロー」がたくさん存在しています。だれがやるのかさえ決まっていなくて、気づいた人がやることになっているような仕事です。そんな仕事に自分の時間や労力を奪われている感覚があると、「いったい自分はなにをやっているんだろう......」と徒労感を覚えます。 そんな状況が続くと、どんなに面倒見がいい人でも、「なんで自分がやらなきゃいけないの!?」「自分ばかりやらされている気がする!」「ほかの人は、なんで気づいてやらないの!?」 といった、ささくれだった気持ちになってきます。 最近、SNS上で大論争を巻きおこした「子持ち様」(子どもの体調不良などで、早退したり、休んだりすることを繰り返す、子育て中の同僚を揶揄する言葉)も、「なんで自分がやらなきゃいけないの⁉」と思ってしまうような余裕のない職場がたくさんあることをあらわしているのでしょう。 なぜ、このような職場が増えているのでしょうか。 それは、産業構造の変化という大きな流れが背景にあります。個人のレベルではどうしようもない経済産業の流れです。 その大きな流れが、職場の個々の働きにくさになったとき、「あの人がちゃんと仕事をしてくれれば、こんなフォローは必要ないのに」「あの人がいるから、よけいな手間が増えて大変だ」「あの人さえいなくなれば、もっと早く帰れるのに」といった、だれか特定の個人に原因を追及したり、攻撃したりするかたちで表面化します。 もちろん、フォローしなければならない相手に問題がある場合もありますが、産業構造の変化という大きな流れが背景にある以上、職場の「あの人」がほかのだれかに代わったとしても、似たような状況がまた起こる可能性が高いわけです。
他人の穴埋め仕事に「なんで自分が!?」
余裕のない職場でよく耳にする言葉は、次のようなものです。 「これは自分の仕事じゃない」 「この仕事は、あの人に任せられない」 「この業務について、なにも聞いていない」 「自分の業務をわたしたくない」 これ以上、業務を増やしたくないけれど、自分の業務はとられたくない――そんな職場の状況をあらわしている言葉です。 メンバーの動きが「守り」になっていて、おたがいが柔軟に業務をまわすことができず、評価されない穴埋め仕事は、だれもやりたくない状況です。たまたま穴を埋めざるをえなくなったメンバーは、当然「なんで自分が⁉」という理不尽な気持ちになって、職場で対立や衝突が起こりやすくなります。
佐藤恵美(メンタルサポート&コンサル沖縄代表)