大阪放火事件から2年「子どもがいるから前を向ける」遺族が明かす「夫の死因を子どもに言わない理由」
「寂しさが薄れることはない」
「事件が起きた当時、子どもも小さかったので、ほとんど覚えていないんですよね。テレビで映像が流れると、お父さんの事件だとはわかっているようですが、子どもには夫が亡くなったことは伝えてあるけれど、放火事件が原因で殺されたとは話していません。 【画像】大阪放火事件から2年。重い口を開いたAさん お墓参りにも行くし、お仏壇に手も合わせるし、お父さんが亡くなったことは、本人なりに理解しているとは思うのですが……。小さかったからよかったとは言えませんが、お父さんがいなくなったことが生活の始まりみたいになっているので、寂しくて泣いてしまう、っていうことはないですね。お父さんがいない生活が当たり前としてとらえているのでしょうか」 そう話すのは、’19年12月17日に起こった北新地放火事件で夫を亡くした被害者遺族のAさんだ。放火事件で亡くなった夫との間には幼い子どもがおり、今、Aさんは、夫がいないことを受け入れつつ、子どもとともに前を向き、歩き出している。ただ、子どもにはあえてすべてを伝えずに過ごしている。 「子どもの性格に影響しないように、それを心がけて生活していますね。子どもはあの事件のことは知っています。ただ、『殺された』という文言は使いたくない。その言葉がもつインパクトが強すぎるし、私自身、『災害』のイメージが強いです。加害者と故人の接点はまったくなかったわけですから。 あの事件のことは、子どもが理解できる年齢になったときにはきちんと話そうと思っています。一番の心配は、これからの成長過程で、あの事件のことと子どものことを興味本位で話されたり好奇の目で見られたりすること。その事態を恐れているというのが今の気持ちです。だから、行けるところはどこへでも連れていくし、いろんな経験をさせています。情緒豊かな人間になってほしい。今は、そんな使命感を抱きながら子育てしています。 主人がいなくなった現実に直面することって生活の中でたくさんあるんですよね。歯ブラシ、髭剃り……生活の場のあちこちにある。その度に、寂しさが薄れることはないのだけれど、いなくなってしまった生活を受け入れつつ、今、できることをしている。そんな感覚です」 そして、今、夫がいない現実を受け入れつつも、前を向いて歩いていけるのは、子どもの存在が大きいとAさんは話す。 「ある意味、子どもがいることで、生活が落ちついていると思うんです。主人が亡くなったことで悲しみに打ちひしがれる時間もないというか。仕事もありますし、家事もしなければいけないし、あるときは子どもを叱るお父さんのような役割もしなければいけないし、子どもが泣いて帰ってくれば話を聞いてあげるお母さんの役割もしないといけない。 両方しないといけないので本当に忙しくしています。忙しい日々を過ごすことで、痛ましかった事件から一瞬だけど離れられる。子どものおかげで、それができているんですよね」