『ドリーム・シナリオ』 “夢”に翻弄される男性が直面する理不尽な現実【シネマナビ】
一年365日、映画&ドラマざんまいの今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、ニコラス・ケイジが主演を務めたスリラー映画『ドリーム・シナリオ』をレビュー。 今祥枝さんのおすすめ映画(画像)
『ドリーム・シナリオ』“夢”に翻弄される男性が直面する理不尽な現実
人は誰しも夢を見る。大抵の人は目が覚めれば詳細など忘れてしまうのだろうが、なぜこんな夢を見たのかと不思議な感覚が後を引くことも多いのでは。ノルウェー出身の新鋭クリストファー・ボルグリ監督と気鋭のスタジオA24、そして『ミッドサマー』の鬼才アリ・アスターがタッグを組んだ本作は、まさにそんな“夢の不思議”巡る中年男性の、理不尽な体験を描いている。 ポール・マシューズ(ニコラス・ケイジ)は、ごく普通の暮らしを送る大学教授だ。ある日、突然何百万という人々の夢の中にポールが現れるという現象が発生してメディアの注目を集め、一夜にして有名人に。有頂天になるも、やがて夢の中のポールが悪事を働くようになり、ポールは悪夢に悩む人々のトラウマの対象になってしまう。わけもわからず、今度は世界中から非難の的になり、家族にも危害が及ぶ。坂道を転がり落ちるように、ポールの人生は暗い闇の底へと沈んでいく。 よくわからない理由で有名になったポールは、本を出版したいなどと夢をふくらませる。子どもにも恵まれ、最大の理解者である愛する妻ジャネット(ジュリアンヌ・ニコルソン)がいるのに、自分のキャリアに関しては納得できていなかったポール。そんな中、突如訪れた“チャンス”に飛びついてしまう彼の心の奥底に、それほどまでに人生への不満や承認欲求が潜んでいたことを、誰が想像できただろうか? やがて肥大化した自己実現への渇望はパチンとはじけて、“平凡な幸せ”さえもゆらいでいく。それもまた、いわれのない理不尽な理由によって。 この物語が伝えるメッセージとは、何だろうか? 注目を集めることに高揚するポールの体験は、SNS時代の社会に巣食う病巣のメタファーとも読めるだろう。悪夢に転じてからは、しばしば物議を醸すキャンセルカルチャーへの問題提起なのか。夢とは理不尽なもの。そして人生もまた理不尽な出来事に満ちている。そんなことをぐるぐると頭の中で考えると、なんだか夢の中にポールが現れそうな気がして、少し怖い気持ちになる。 監督・脚本・編集/クリストファー・ボルグリ 出演/ニコラス・ケイジ、ジュリアンヌ・ニコルソンほか 配給/クロックワークス 公開/11月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開 ナビゲーター 今 祥枝 一年365日、映画&ドラマざんまいのライター、エディター。編集協力に『幻に終わった傑作映画たち』(竹書房)。 ※BAILA2024年12月号掲載