タクシー乗務員の健康増進を実現する、日本交通の「ウェルネス経営」とは
生産人口の減少が進むなかで健康に対する社会的な価値が変わり、「健康経営」に取り組む企業が増えています。一方で、「施策が頭打ちになっている」「効果が見えにくい」「従業員に浸透していない」といった声もよく耳にします。 このような状況下、日本交通株式会社では経営方針の一つとして「ウェルネス経営」を宣言。自社独自の健康保険組合を運営するほか、CWO(Chief Wellness Officer)の設置や、乗務員の健康・受診管理を強化する「健康管理プロジェクト」の実施など、従業員の健康増進に向けてさまざまな施策に取り組んでいます。 同社のCWOである畠山 明秀さんに、取り組みの詳細や課題、従業員の変化などについてうかがいました。
ウェルネス経営宣言の前に、管理職自らが健康管理に取り組んだ
――2015年に「ウェルネス経営」を宣言し、健康増進施策を展開されています。取り組みを行うことになった経緯をお聞かせください。 タクシー業界は従業員の平均年齢が高く、他の産業よりも健康リスクが高いといえます。また、お客さまをお乗せして運転するという命を預かる仕事であるため、社員がまず健康でなければ安全を実現できません。 会社として健康経営に取り組むべきだと感じていたときに、ウェルネスサービスを運営している企業との連携の話があり、ダイエットアプリを活用して健康管理を始めてみることになりました。健康経営を推進するにあたっては、管理職の意識を改革することが大切だと考え、まずは管理職が健康管理を行ってみることに。BMI値が高い人を抽出し、食事を指導してくれるアプリを活用して3ヵ月のダイエットを行いました。私もその一人です。1日の食事量と運動量を記録し、体重がどう推移するかをみていきました。 その後、「ウェルネス経営」を宣言し、全社で横断的に取り組むための旗振り役として、タクシー部・ハイヤー部それぞれにCWO(Chief Wellness Officer)をおくことになりました。タクシー部のCWOを担当することになったのが私です。 タクシー部には4000名を超える乗務員がいるため、健康管理の体制が整うのに時間がかかりましたが、ここ2~3年で本格的な施策を展開しています。2022年6月には「健康管理プロジェクト」を発足。タクシー乗務員の健康・受診管理を行うことで、健康管理への意識を向上させ、健康上の問題が原因となる事故を防止することが目的です。 ――「健康管理プロジェクト」に関する取り組みの概要をお聞かせください。 行った施策は主に四つです。一つは、SAS(睡眠時無呼吸症候群)に対する取り組みです。タクシー部にいる約4000名の乗務員の中から、健康診断でBMI30以上になった人を対象に、SASの簡易検査キットを配布。検査の結果、「要診断」「早期受診」に該当した人には、当社独自の健康保険組合である「日本交通健康保険組合」と連携している病院の呼吸器外来などを受診してもらうようにしました。会社が指示する形で受診をしてもらうため、治療費の一部は会社が補てんしています。 二つ目は、脳ドックです。まずは高血圧の人に検査をしてもらいました。E判定が出た人もいましたが、対応は二つに分かれます。治療を継続しながら乗務する場合と、一度乗務を停止し、治癒してから乗務する場合の二つです。 三つ目は、法的に定められている特定保健指導の徹底です。目的は、病気予備軍の人が病気になるのを抑制すること。40~74歳の対象者の中から保健指導対象者を選び、特定保健指導を行います。病気になる前の予備軍の人たちに、保健員の指導のもと食事療法の指導を行いました。 四つ目は、業務開始前の血圧測定です。高血圧は疾患につながるリスクが高いため、血圧を意識してもらうことが目的でした。各営業所に血圧計を置き、健康診断で高血圧と診断された乗務員、高血圧を治療中の乗務員には、日常的に血圧を測ってもらうようにしています。