タクシー乗務員の健康増進を実現する、日本交通の「ウェルネス経営」とは
タクシー乗務員の健康管理の意識を変えたのは、運行管理者の日々の声かけ
――健康管理プロジェクトを実施するにあたって、課題はありましたか。 乗務員の健康を考えて、会社がさまざまな機会を作っても、文化として浸透するには時間がかかります。個人の立場で考えると、少し体調が悪いくらいなら病院に行くのはおっくうだと思うものです。検査や治療を受けてほしくても、なかなか個人は動いてくれません。健康に対する意識づけに苦労しました。 また、従業員に意識が浸透するスピードは事業所によってばらつきがありました。事業所は少ないところで120名ほど、大規模なところは1200名ほどと規模が大きく異なります。健康管理プロジェクトの実施にあたり、事業所が目指すゴールを設定しましたが、特に大規模事業所は達成が難しい状況でした。 ――課題に対して、どのように取り組まれたのでしょうか。 営業所にいる運行管理者一人ひとりが、検査や治療に行ってほしい乗務員の体調を気遣い、伝え続けるという地道な活動をしてきました。運行管理者とは、タクシー乗務員に運行の指示をしたり、健康面や営業面について指導したりするポジションで、一人ひとりの乗務員と面談なども行います。タクシー40台にあたり、運行管理者を一人おくことが法律で義務付けられています。 タクシー乗務員には高齢の人も多いのですが、人間は歳をとると頑固になっていくものです。年配の乗務員に健康診断の二次検査に行くように伝えても、最初のうちは「僕は元気だから大丈夫」となかなか病院に行ってくれません。そんな乗務員に対して、運行管理者は「検査でこんな数値が出ているんだから、行かないとだめですよ」と言い続けました。このとき、ただ病院に行ってくれと言うのではなく、「あなたの体を心配しています」と伝え続けることが大事です。自分の体のことを心配してくれていると分かり、病院に行くようになった乗務員が多くいました。 また、タクシー乗務員の仕事はアナログな部分が残っていて、日報などを手書きで書くこともあります。運行管理者はこうした日報も読むのですが、震えながら書いたような字を見つけたら、「脳に異常があって手が震えているのではないか」などと考えます。ちょっとした変化にも敏感に気づくのです。 運行管理者が乗務員に会うのは、業務開始の朝と業務終了後しかなく、それもほんの数分です。そのときに違和感をおぼえたら、顔色が悪くなくてもあえて「顔色が悪いけど大丈夫ですか」などと声をかけたりします。その反応を見て、様子がおかしいと感じたら別室で話したりすることもあります。 ほかには、運行管理者同士での情報共有も活発です。例えば、普段とは違う様子で仕事をしているように感じる人がいたら、ほかの運行管理者に「何かあったのかな」「心配事があるのではないか」などと会話することもあります。 運行管理者は、乗務員が事故を起こしてしまったときの対応も行います。そのため、「様子が気になる乗務員をそのままにしたら、事故につながるかもしれない」という危機意識の高いことが特徴です。