ルーターの役割 【岡嶋教授のデジタル指南】
ネットワークはハブ、ブリッジ、ルーターなどいくつもの通信機器によって構成され、運用されています。今回はその中からルーターについて説明します。 ルーターはいくつかの役割を担いますが、その中で最も重要なのは異なるネットワークを接続することだと思います。「ネットワーク」はあらゆる場面で使われ、その場面場面で意味が異なる可能性がある言葉なので、ちょっと注意が必要です。ここでは、「同じ通信技術を使っている / 同じポリシーで運用されている / ブロードキャスト(全員宛の通信)が届く範囲」と考えていただければと思います。 例えば、会社や学校は一般的には一つのネットワークを形成します。会社Aと学校Bは別の技術を使っているかもしれませんし、運用ポリシーも異なるでしょう。この場合、会社Aと学校Bは別のネットワークです。そして、ネットワークとネットワークの境界に置かれ、ネットワーク同士を接続したり隔てたりする機能を担うのがルーターになります。 ここで疑問を持たれる方がいるかもしれません。例えば、会社の総務部と人事部、学校の3階と4階が別ネットになっているような事例です。管理や利用をしやすくするための一般的な運用方法ですが、これは一つの会社ネットワークがあって、それを便利に使うために部署ごとにサブネットワークに分けていると理解していただければ良いと思います。 一つの会社ネットワークをサブネットワークに分割するには、ブリッジなどの別の通信機器が使われます。もちろんたくさんの事業所があったり、地理的に離れていたりする場合は同じ会社の中でいくつもネットワークがあって、ルーターで分割されていることもあります。規模や事情によって、構成の形はさまざまです。 ルーターはこうしたネットワーク同士を結びます。 例えば、会社Aは構内のネットワークをWi-Fiで組んでいて、学校Bはイーサネットを使っているかもしれません。ルーターはこの違いを吸収して、会社Aと学校Bを接続することを可能にします。ネットワークとネットワークを結ぶことをインターネットワーキング(inter=間、networking=ネットワーク)といい、インターネットの語源にもなっていますが、インターネットワーキングを担うのがルーターというわけです。他のネットワークへパケットを送るときに無数に存在する経路からどれを選ぶかといった道案内の役もしています。 また、逆説的なようですが、ルーターはネットワークとネットワークのつながりを遮断することにも使われます。例えばブロードキャスト通信(全員宛の通信)が、本当に世界中の全員へ配信されたら大変です。部外者には関係のない通信が届きネットワークが混雑して迷惑するかもしれませんし、機密情報が漏れるかもしれません。 ルーターは自分のネットワーク外へ出ていこうとするこれらの通信をせき止め、他のネットワークに影響を与えないようにしています。また、他のネットワークから自分のネットワークへ入ってこようとする不必要な、あるいは悪意のあるパケットを破棄する役目も果たしています。 【著者略歴】 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。