【ネタバレ】『海に眠るダイヤモンド』いづみの正体が判明 相関図に“名字”がなかった理由
※本稿は第5話まで伏せられていた、いづみ(宮本信子)の正体に触れています。
たしかに、いづみ(宮本信子)の言動はすべて彼女と繋がっていた。玲央(神木隆之介)が働くホストクラブに訪れたときには「キラキラしたの大好き」と話していたし、いつだって彼女の周りには花があった。長崎で食べたちゃんぽんの味を「普通」と言い切っていたのも、店の原価率について「普通の飲食店はだいたい30%前後よね」と指摘していたのも、銀座食堂の看板娘だったアイデンティティが滲む。 【写真】リナ(池田エライザ)と進平(斎藤工)、“呪い”を分かち合うキス そして、何よりも数十年という長い年月が経っても荒木鉄平(神木隆之介/1人2役)のことを忘れることができず、日記を繰り返し読み、そしてそっくりな玲央を見つけ出してプロポーズをする。それだけ鉄平に対して熱意がある女性といえば、小さいころからずっと彼を想い続けていた朝子(杉咲花)しかいないのだ。 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)第5話は、前半で最も注目を集めていた謎の女性・いづみの正体が判明した。しかし、振り返ってみればこれだけ朝子を示すヒントがあったにも関わらず、百合子(土屋太鳳)やリナ(池田エライザ)、あるいは3人ではない他の誰かかもしれない……と模索してしまったのは、どこかで健気な朝子の初恋が実っていてほしいと願わずにはいられなかったからかもしれない。 朝子が自ら「コードネーム・いづみ」と名乗っていたのは、旧姓の「出水」から。おそらく、今はIKEGAYA株式会社の社長としてイケガヤの姓を名乗っているのだろう。そして、鉄平を「忘れられない人」と話していたのは、その存在を忘れて前に進んでいてもおかしくない距離感であることが伺える。端島に生きる朝子と鉄平の距離が縮まりつつあるのを見守っているだけに、そんな未来が待っているとは考えたくなかった。 それは、こうして眺めている活気ある端島という島が、いずれ閉山を迎えることを知っている感覚と重なる。このキラキラとした日々は永遠には続かない。花がずっと咲き続けるわけにはいかないように。「戻れない、あの島。今はもういない人々、愛しい人の思い出はすべて、あの島へ、置いてきた」という、いづみのモノローグから始まったこの物語。後半は、そんな切なさを噛み締めながら見進めていかなければならないのだと再認識させられるようだった。 第5話のサブタイトルは、端島を愛していた人々が理想として掲げていた「一島一家」だ。それは「島全体がひとつの家族」という意味だそう。だが、いづみの一家を見てもわかるように、本当に血の繋がった家族でさえひとつになることはなかなか簡単にはいかないもの。それなのに端島に住む人びとは同じ島に住む仲間でありながら、使用者と労働者になったり商売人と常連客だったりと関係性が複雑に入り組むからさらに難しい。 鉄平と兄・進平(斎藤工)が、鉱山のロックアウト中バリケード越しに拡声器を通して会話していたのが象徴的だった。実の兄弟であっても、「勤労課の外勤」と「鉱員」という立場でそれぞれの主張をぶつけ合わざるを得ない。個人的にどんなに親しい間柄であっても、立場が違えば正義は異なる。その違和感は炭鉱長の辰雄(沢村一樹)と、その息子である賢将(清水尋也)の間にも生まれていた。 端島の人に溶け込みたい賢将に対して、「お前は違う。馴れ合うな」と言い聞かせてきた辰雄。詳細は描かれていはいないものの、辰雄の妻であり賢将の母も、その難しい立場に疲れて「こんな離島、耐えられない」と出ていったのではないだろうか。 厳しい父のことを尊敬したいと思いながらも、自分にとって故郷とも言える端島にも愛着が生まれている賢将。端島にいるからこそ、父の嫌な側面を見なければならない。端島に来たからこそ、母のいない寂しさに耐えなければならない。小さな子どもではどうしようもできない苦悩を抱えた賢将を温かく迎え入れたのが、鉄平の家族だった。 賢将は、料理としてカレーライスが好きだったわけではない。鉄平の家族と一緒に食べるカレーライスが好きだったのだ。賃上げ争議をきっかけに「違う立場の者」として鉱員たちから分断されてしまった賢将。端島を「嫌いになりたくない」とは言いながらも、自分を嫌ってくる人々を好きでい続けるのも苦しい。 そうして大人になってもなお苦悩を続ける賢将を、もう一度「同じ立場の者」として引き寄せたのが鉄平の父・一平(國村隼)だった。「うちのカレーいつ食いに来るんだよ。あいつはな、うちの家族なんだよ。俺の自慢の息子、みてぇなもんだ、な! いつだって来ていいんだぞ」と、賢将に一平が声をかけるシーンが胸に迫るものがあった。 そんな一平のまっすぐに愛情を伝える姿勢は、鉄平にも引き継がれている。賢将が朝子を好きなことを百合子から聞いた鉄平。賢将のことも好きだと伝えた上で、自分も朝子に対して好きな気持ちがあるのだとハッキリさせる。なぜなら鉄平にとっても賢将は「家族、みてぇなもん」だから。みんなで幸せになりたい、と思える大事な人だから。