不便さ魅力?「チェキ」売り上げ過去最高◆若者にウケるわけは【時事ドットコム取材班】
インスタントカメラ人気が絶好調だ。富士フイルムの「チェキ」シリーズは、売上高が3期連続で過去最高を更新し、購入層の中心は若者世代だという。誰もがスマートフォンで高精細な写真を撮れる今、なぜ若者がフィルムに「回帰」するのか。背景を取材してみると、インスタントカメラの流行が一過性のブームではないことが見えてきた。(時事ドットコム編集部 長田陸) 【ひと目で分かる】チェキの売上高推移 ◇売り切れ続出、フィルム転売も 2024年5月中旬、家電量販店「ビックカメラ新宿東口店」を訪ねた。「チェキ」の愛称で知られる富士フイルムの「INSTAX」は、撮ったその場でプリントできるインスタントカメラ。売り場には、パステルカラーでかわいらしい形をした製品や、「昭和レトロ」を感じさせるクラシックな見た目のものなど、約30個の見本がずらりと並ぶ。しかし、実はこの大半が在庫切れ状態で、売り場の担当者は「本体もフィルムも、入荷するとすぐ売れてしまう」と話す。 売り場担当者によると、購入層で一番多いのは、レトロな風合いの写真を撮りたい10~20代の女性。帰国時のお土産として買い求める外国人観光客も増えており、フィルムは販売時に転売対策を取るほど人気だという。売り場で見本を眺めていた20代の男性客は「インスタントカメラはスマホと違って不便だが、想像していなかった写真が出てくるのが面白い。写真にすぐ手で触れられるのも、デジタルにはない良さだと思う」と語った。 ◇「デコって思い出」「推しを布教」 若者でにぎわうJR渋谷駅のハチ公前広場を歩いてみると、確かに、透明なスマホケースの裏にチェキの写真を挟んでいる人を何人も見掛けた。愛犬の写真を挟んでいた19歳の女子大生は、「思い出の瞬間が形になるので、旅行先や特別な場面でチェキを使う。旅行の思い出にキーホルダーを買うような感覚です」と教えてくれた。「写真にシールを貼ったり、メッセージを書き込んだりして『デコる』(デコレーションする)こともある。友達と一緒に作業すれば、それも思い出」と笑った。 お気に入りの存在を応援する「推し活」での需要もあるようだ。男性アイドルのチェキ写真を専用の保護ケースに入れ、バッグに提げていた21歳の女性は、「推しの『布教』になるから着けている」と話す。「布教」とは、写真を見た人に「推し」をアピールし、ファンの輪を広げるという意味で、実際にチェキ写真を見て声を掛けてくれた人と友達になったこともあるという。「(イベントなどで)アイドルから直接写真を手渡してもらった時に感じた幸せな気持ちが、推しが触れた形のあるものとして残るのも嬉しい」と話した。 ◇売り上げ急増、きっかけは17年前 富士フイルムによると、チェキの世界販売はシリーズ全体で21年度から3期連続で過去最高を更新。フィルムの需要増に対応するため、生産設備の増強を進めているという。売上高の推移を見ると、実は売り上げの増加傾向がここ数年間だけではなく、07年度から17年間にわたって続いていることが分かる。 チェキが国内で発売されたのは1998年。フィルムを現像に出さなくてよい便利さが受け、2002年度に一度目の「ピーク」となる年間販売台数100万台を達成したが、カメラ付き携帯電話が普及した影響で、売り上げはいったん急落した。ところが、07年度に入ると一転して回復期に入り、2018年度には年間1000万台を突破。現在、世界100カ国以上で展開しており、23年度までに累計8000万台を売り上げている。