不便さ魅力?「チェキ」売り上げ過去最高◆若者にウケるわけは【時事ドットコム取材班】
◇スマホ普及で急回復、デジタル化の「反動」
「転機となった07年は、ちょうどスマホが市場に出始めたタイミングだったんです」と振り返るのは、同社のイメージングソリューション事業部でチェキを統括する高井隆一郎さん。なぜ、スマホの普及で逆にチェキの売り上げが伸びたのか。 高井さんによれば、枚数の制限がほとんどなく、いつでも簡単に写真を撮影できるスマホが当たり前になったことで、大量の写真をアルバムに保存できる安心感は得られるようになったが、1枚1枚の価値は相対的に下がってしまった。「発売当時は、撮った写真がすぐに見られることがインスタントカメラの価値だった。ところがデジタル化が進んだ結果、大切な一枚を形に残せる魅力が注目されるようになったのではないか」とみる。 チェキは無制限に撮り直せない不便さがあるが、そうした写真には特別感があり、デジタルでは代替できない。あこがれのアイドルに直筆でサインを書き込んでもらったり、メッセージを添えて友達に贈ったりすることもでき、「メールよりも直筆の手紙の方が『気持ちが伝わる』と感じるように、写真データではなく実物のフィルムを渡したいと思う人が多いのではないか」と高井さんは語った。 ◇リアルな「手触り」に回帰 10~20代の若者の消費行動を分析しているマーケティング機関「SHIBUYA109lab.」の長田麻衣所長の話 現代では、SNSで写真や動画、文章を閲覧することで、誰かが経験したことを簡単に追体験することができる。その反面、そうした他人の投稿では感じることができない「手触りのある実感」を得ることが、貴重で尊いと感じる若者が増えているようだ。 好きな模様のラグマットやキーホルダーを作ったり、陶芸をしたりするワークショップも、Z世代の人気を集めている。こうしたクラフト体験やチェキの流行に共通するのは、やはりデジタルにはない「手触り感」だ。若者は、チェキにセットしたフィルムを巻く感触などを楽しんでいるのだろう。また、若者にとってレトロなコンテンツは新鮮なようで、チェキだけでなく「写ルンです」や旧型の「iPhone(アイフォーン)」も、画質が粗く「エモい」写真が撮れるとしてトレンドになっている。 スマホをはじめとしたデジタル技術の普及で、以前よりも便利な社会になったが、手を動かして作業する機会は減ってしまった。手作業で何かを作り上げるプロセスは面倒かもしれないが、だからこそ既製品にはないオリジナリティや愛着を感じることもあるのだろう。