神戸在住の俳優堀内正美さんが阪神大震災30年の歩みを振り返った著書を出版
「僕が震災で何を見たのか。喪失と悲嘆を抱えた人たちが希望を抱くためには――」。1995年の阪神大震災発生直後から、被災者の生活支援に尽力してきた神戸市在住の俳優、堀内正美さん(74)が、30年の歩みを振り返った著書「喪失、悲嘆、希望 阪神淡路大震災 その先に」(月待舎)を出版した。遺族に寄り添い、行政の手が届かない人への支援に奔走した経験を伝える一冊となっている。(松山春香)
「成果だけではなく、できなかったことを含め経験全てを次世代に伝え、今後の被災地支援に役立つ記録を残したい」との思いで、2022年春頃から執筆を始め、全6章で構成する著書を完成させた。
当時自宅のあった北区で被災した堀内さんは、長田区の方向から煙が上がる様子を見た。すぐに車で駆けつけ、多くの建物が倒壊していた光景に絶句しながらも、付近の住民らの救助活動に加わった。
番組パーソナリティーを務めていたラジオ局では、やり場のない不安を訴える被災者の電話に耳を傾け、番組では「がんばろう神戸。私たちのまちだから」と何度も呼びかけた。被災者のニーズをくみ取り、支援する人々をつなぐボランティア団体「がんばろう!!神戸」を結成し、生活再建を支援してきた。
遺族と交わした言葉をきっかけに、東遊園地(中央区)に全国からの火を集めたガス灯「1・17希望の 灯あか り」を設置することに尽力。遺族らが集える場をつくろうと結成したNPO法人「HANDS」は毎年、震災の痛みを共有できる場として追悼行事「1・17のつどい」を開いている。
経験を生かし、東日本大震災など他の被災地支援にも力を入れてきた。著書には、こうした30年にわたる活動の経緯や思いが克明につづられている。
堀内さんは、ボランティアが被災者や遺族にできることは「寄り添うこと」と強調する。そして「大切な人との別れや災害は誰にでも起こりうること。一人でも多くの人が少しずつ意識を変えることで、悲しい境遇に置かれ、困っている人たちが声を上げられる社会になってほしい」と願う。
本は四六判、312ページ。1800円(税別)。問い合わせは月待舎(078・600・0521)へ。