内視鏡検査での麻酔を演出に使ったバラエティー番組「KILLAH KUTS」、いったい何が問題なのか?
■ 憤慨した麻酔科学会が出したコメント 番組では、麻酔薬としてプロポフォールが使われたことについて説明はなかったが、この番組を受けて、日本麻酔科学会が理事長である山蔭道明氏(札幌医科大学麻酔科教授)の名前で声明を発表し、麻酔薬の誤った利用を非難した。 「10月14日配信開始の番組において、プロポフォールが内視鏡クリニックを舞台に使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれている」 「プロポフォールをはじめとする静脈麻酔薬は、本来、手術や検査時の鎮静を目的に、医師の厳重な管理のもとで使用される」 「薬剤は呼吸抑制のリスクを伴うため、必ず人工呼吸管理が可能な環境で使用される必要」 「マイケル・ジャクソン氏の死亡事故などでも広く知られているように、適切な医療管理が行われない場合、生命に危険を及ぼす可能性」 声明では、プロポフォールを含む静脈麻酔薬は呼吸抑制のリスクを伴い、必ず人工呼吸管理が可能な環境で使用される必要があると強調している。また、マイケル・ジャクソン氏の死亡事故を引き合いに出し、適切な医療管理が行われない場合の生命への危険性に警鐘を鳴らしている。 プロポフォールに限らず、注射によって導入される麻酔薬全般について危険性があると指摘している。 その上で、「このような麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切であり、断じて容認できるものではありません」とし、麻酔薬の安全な使用への信頼を損なう可能性にも言及している。 私も獣医師資格を持つジャーナリストとして医療に関する取材をしているが、もしプロポフォールが使用されたのであれば、非常に危険だと感じた。 なお、番組の医療監修は、外科出身の医師と精神科医の2人がエンドロールに記載されていた。
■ そもそもプロポフォールの内視鏡使用が問題では? 先述の通り、今回、麻酔の投与を正当化する理由として示されていたのは、内視鏡検査を一緒に行ったという点だ。今回の企画が倫理的に許されるとしたら、その一点が許容されるかどうかが大きな問題になる。 筆者の認識としては、プロポフォールを内視鏡検査に使用すること自体が問題だと感じた。端的に言えば、プロポフォールはリスクが高すぎると考えるからだ。そこで、ある麻酔科医の意見を聞いてみた。 日本国内では、2013年に日本消化器内視鏡学会が「内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン」を発表し、この中で内視鏡検査でプロポフォールを使うことが可能であると示された経緯があった。このガイドラインを踏まえると、内視鏡検査でプロポフォールを使うこと自体は可能である。 だが、この麻酔科医は「内視鏡時のプロポフォール使用は積極的に勧められるものではない」と指摘した。 「欧米では、非麻酔科医によるプロポフォールの投与に関するガイドラインが存在しており、安全に使用できるような教育体制が整っています。それに対して、日本ではそのようなシステムや指針が十分に整備されていません。現時点で非麻酔科医が安全にプロポフォールを使用できるかどうかは、慎重に判断する必要があります。それはガイドラインにも明記されています」 内視鏡検査ではプロポフォールではなく、一般的に使われている別の睡眠導入薬であるベンゾジアゼピン系薬剤を使用できる。プロポフォールは、ベンゾジアゼピンよりも、舌が落ち込んだり、血圧が低下したりするような作用が強い。 プロポフォールは、他の鎮静手段が効果を示さない場合や、ベンゾジアゼピン系薬剤が使えない場合に限り使用されるべきだと筆者は考える。 人間ドックはそもそも自費診療だが、何かの病気や症状の検査であっても日本では内視鏡検査時のプロポフォールは保険が適用されない。それは安全性に懸念があるためだ。