「福島の移住支援制度で挑戦できる」県内初・オーダーメイドの靴工房を立ち上げた靴職人
製作プロセスは、顧客との綿密な打ち合わせから始まる。安藤さんは、顧客ひとりひとりのニーズに寄り添いながら、理想の靴を作り上げていく。 「デザインや素材、使用シーンなど、お客様の要望を丁寧にヒアリングします。専門的な知識がなくても大丈夫です。ざっくりとしたイメージから、一緒に理想の靴を作り上げていきます。 例えば、“デニムに合う靴が欲しい”というお客様には、ダービーシューズをベースにして、素材や靴底の雰囲気など、実際に製品サンプルやヴィンテージの革靴をお見せしながらデザインを決めていきます」。
創作に適した環境と直面する課題
福島での生活は、安藤さんに新たな気づきをもたらしている。東京とは異なる環境が、創作活動にプラスの影響を与えているそうだ。 「都会と比較すると生活コストが抑えられるのはもちろん、福島の豊かな自然は自分と向き合うにはもってこいの環境です。人の温かみを感じながらも、広大な自然の中で程良い孤独感も味わえる。この孤独感が、創作をする私にとってとても大事な要素なんです」。
一方で、認知度を上げることの難しさも感じているという。東京のような大都市とは異なり、顧客の獲得には独自の戦略が必要だ。 「ビスポークシューズを知らない人がほとんどなので、まず知ってもらう活動から始める必要がありました。先ほどお話しした地域イベントでの活動により、少しずつ認知されてきていると感じます。 “商売のためだけ”ではなく、靴を通して地域に新しい風を吹き込んでいけたら良いなと思っています」。
人材育成と海外展開への挑戦
安藤さんは、さらなる成長と展開を目指している。個人の工房から、チームで動く組織へと発展させていくことが、次の大きな目標だ。 「将来的には、海外展開も視野に入れています。そのためには、チームで動く必要がありますが、この繊細な作業は連携を取るのが難しい。自社で一貫して作業するのが理想なので、人材育成が大きな課題です。 海外で受注を取り、日本で製作するというサイクルを確立できれば、福島発の靴ブランドとして世界に認められる可能性があると信じています」。 さらに、地域活性化への貢献も視野に入れている。 「靴作りを通じて、福島の魅力を世界に発信していきたいです。それが新たな産業や雇用の創出につながれば、地方創生の一助になると考えています。福島には、まだまだ可能性が眠っています。一緒に新しい未来を作っていける仲間が増えることを楽しみにしています」。 ◇ 一足一足に込められた匠の技と情熱。安藤さんが福島で紡ぐ靴には、地方創生の希望が詰まっている。 その歩みは、新たな産業の芽吹きとなり、やがて世界へと続く道を照らすだろう。 新澤 遥=写真 倉持佑次=取材・文
OCEANS編集部