「聞こえているのに聞き取れない」子どもたち、聴覚検査は正常な「聞き取り困難症」の実態とは?
自覚症状が大事だが、子どもほど聞き取りにくさを自覚しづらい
──聞き取りに困難を感じている人の割合はどのくらいなのでしょうか? われわれが、難聴と診断されたことが「ない」18~90歳の成人1391人を対象にして、聞こえに関する2種類の検査を行ったところ、少なくともどちらかの検査で「聞き取り困難」という結果がでた方は53.2%にも達しました。加齢による変化も含まれますし、実際に難聴だった方もいるでしょうが、実に5割以上の方が聞き取りに困難を感じていると考えられます。 ただし、LiD/APDの当事者は、2種類の検査のどちらも「聞き取り困難」という結果になることが多いです。これを踏まえると、今回検査した成人では25.1%が聞き取りに困難を感じていると考えられます。 ──LiD/APDと見られるお子さんの割合はどのくらいなのでしょうか? 大阪教育大学附属学校の小1~高3を対象に、3年にわたってアンケート調査を行った結果、われわれのLiD/APDの定義に当てはまりそうな生徒は、回答者の21.1~24.7%にあたりました。もともと聞こえに関心がある生徒が回答しているというバイアスはあるものの、4~5人に1人が聞こえに困っていると思われます。 小さいうちは聞こえにくさを自覚しにくく、年齢が上がるにつれて自覚症状が出てきます。子どもが小学校1年くらいまでは親子で症状の見立てが合うものの、それ以降は乖離が出てきます。「自覚症状あり」の子どもが右肩上がりで増えるのに対し、「子どもの聞こえが気になる」という親は増えません。つまり、子どもは困っているが親は気づいていない、というケースがあるということです。 ──聞こえにくいまま過ごしているお子さんも多そうですね。 小学生などの早い段階でLiD/APDが見つかるケースは少ないです。ただし、発達障害のお子さんなどでコミュニケーションの問題をきっかけに調べた結果、比較的早く判明することともあります。 実は、LiD/APDは社会人になってから自覚する方が多く、外来で最も多いのは20代女性なのです。学生時代は先生の話が聞き取れなくても友達に聞けばいいし、聞き間違いが多くても 「天然だよね」で済みますが、就職するとそうはいきません。電話対応で聞き取りができない、上司の指示がうまく頭に入らないという状況に陥り、自信を失って適応障害になるケースもよく見られます。話を聞くと、「学生時代も聞こえていなかったが、適当に返事をしていた」「バイト時代も店長に怒られっぱなしだった」ということが多いのです。 ──発達障害とLiD/APDには関連があるのでしょうか? LiD/APDだから必ずしも発達障害、というわけではありません。私たちの研究では、LiD/APDで発達障害という診断がつく人は30~40%でした。 ASDのお子さんの中には、医師に「ASDがあるから話を聞いていなくて当たり前」と言われ、耳鼻科を紹介してもらえなかったケースもあるようです。ASDで聞き取りに困難を抱えている人は多いですが、「ASDだから聞けていなくて当然」というわけではありません。その子が何に困っているのか、どんな状態なのかをきちんと調べる必要があります。 また、発達に凸凹はあるがASDの特性は満たしていない、という人もいます。凸凹は人によって異なり、脳のワーキングメモリ(短期記憶)の問題でも、聴覚的な短期記憶の数唱に出る人もいれば、その後の操作を評価する語音整列に出る人もいて、どちらの場合も聞き取りにくさを強く感じると考えられます。