経済的繁栄は、ネットは、人々を「幸福」にしたか? 幸せを感じるのは人間の心だ
「北朝鮮」と「明るい北朝鮮」
さて、がらりと話題が変わるが、世界で最も国民が不幸な国はどこであろうか? 多くの「独裁国家」が頭に浮かぶであろう。北朝鮮を思い浮かべる読者も少なくないはずだ。共産主義国家を標ぼうしているのに、祖父-子-孫と三代にわたって統治権力が世襲されている点が「独裁」の象徴と思われている。 だが、実は世間的には自由主義陣営と思われているシンガポールも「明るい北朝鮮」と揶揄されることが多い。 実際、北朝鮮の権力の世襲は「建国の父」(実際にはソ連が送り込んだ傀儡政権とされる)と称される金日成から続くが、シンガポールも4月15日に20年の長期政権から退くことを表明した第3代首相リー・シェンロンは、シンガポール「建国の父」である、リー・クアンユーの息子である。しかも、第2代のゴー・チョクトン政権は14年にも及ぶ長期政権であったが、前任のリー・クアンユーの信頼を勝ち得て首相に就任しており、内閣は「ゴーチーム」とも呼ばれた。シンガポール国内では、リーの息子リー・シェンロンへの「中継ぎ」とも「リーのクローン」ともいわれ、リー・クアンユーの政策を踏襲している。 シンガポールには北朝鮮のような「強制収容所」や残虐な「処刑」は存在しないが、法律でがんじがらめに国民を縛っている。例えば、トイレの水を流さなかったり、ガムを道に吐き出したりするだけで極めて厳しい罰が与えられることは有名だ。さらには、鞭打ちという前近代的な刑罰が普通に実施されており、外国人にこの刑罰が適用されるときなどは、国際的人権問題になったりする。 さらに、海外勤務などの然るべき理由がなく、投票に行かなかった場合は、選挙人名簿から名前が抹消され、さらに50シンガポールドルの罰金が科せられる。 そのおかげで、2011年の総選挙では93.18パーセント、2015年の総選挙では93.56パーセントの投票率であった(参照 :一般財団法人自治体国際化協会シンガポール事務所「シンガポールの投票率はなぜ高い?」)。 この「異常な」投票率の高さと、「投票は権利ではなく『義務』」だとの考えは、まるで全体主義国家である。 実のところ「北朝鮮」と「明るい北朝鮮=シンガポール」の主な違いは、「経済的豊かさ」のように思える。