12月はこんな映画を観ようかな。
『枯れ葉』
低賃金労働者の男女が出会い、恋に落ちる。そんな物語を彩るのは、仏頂面の人々とぶっきらぼうに呟かれる言葉、レトロなレストランとジュークボックス、淡いグリーンの壁紙と暗がりの真横に差す光などなど、お馴染みのカウリスマキ的なあれこれ。しかし同時に、これまではなかなかお目にかかることができなかったアイテムも登場する。携帯電話、ネットカフェ、ジャームッシュの『デッド・ドント・ダイ』! そして、何よりラジオから絶えず流れ続けるウクライナ戦争の報道。その意味で本作は、カウリスマキが最も”今”に肉薄せんとした1作と言えるかも。12月15日より公開。 まったりしがちな年末に刺激を注入してくれる3作。
『王国(あるいはその家について)』
本作の複雑な構造を短文で説明するのは至難の業。ある台風の日に殺人事件が起こり、事件前後の出来事を、犯人と被害者遺族である夫婦が、脚本の読み合わせやリハーサルを通して幾度となく演じ直す……という言葉ではたぶん本作の20%も掴めてないが、まぁそれは観てもらうとしよう。どうやら事件の鍵を握るのは、幼馴染である犯人と被害者遺族の妻がかつて台風の日に過ごした「密度の濃い凝縮された時間」(『台風クラブ』みたいだ)にあるらしいのだが、この映画自体こそが「密度の濃い凝縮された時間」と言いたくなる驚異の150分。12月9日より公開。
『VORTEX ヴォルテックス』
以前、本誌で『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督に取材したとき、「最近観た映画では群を抜いて素晴らしかった」と語っていた『VORTEX ヴォルテックス』がいよいよ公開。ひとつ屋根の下で暮らす、老齢の夫と認知症を患う妻のすれ違いを、画面を2つに分割し、夫婦それぞれの視点から描いた怪作だ。「120年以上の歴史がある映画だけど、まだまだ新しい発見があって」というジェンキンスの言葉もさもありなん。加えて、夫を演じたのが、伊ホラーの巨匠ダリオ・アルジェントってところも見逃せない。アルジェント、こんなに演技がうまかったなんて! 12月8日より公開。 text: Keisuke Kagiwada
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