「虚無にはごはんが効く」疲れた自分をいたわる食事の力をフードエッセイスト平野紗季子に聞いた
やっぱり虚無にはごはんが効きますから
――個人の仕事と並行しながら会社での仕事も続けるのは、とても大変な日々でしたよね。激務をこなしてきた平野さんを支えてきたのもやはり「食」でしょうか。 平野さん:それは本当にそうですね。本にも書きましたが、やっぱり虚無にはごはんが効きますから。仕事で疲れ果ててしまって、自分が空っぽのように感じてしまうタイミングってありますよね。深夜にやっと会社を出られても、もう外には誰も歩いていないし、本当に空っぽ、自分の中になんにもない、みたいな感覚に……。 そんなときに、家の前の深夜までやっている食堂にすがるように入ってごはんをいただいたら「おいしい」のはもちろんそうなんですが、自分にもまだ「感じる力」が残っていたのか……と気がつくことができて、それが強く心に残ったんです。その経験から、私が私でいるためには、たとえちょっとやそっと人様に迷惑をかけてでも、食事をして何かを感じる時間を守らなきゃいけないんだと強く感じるようになりました。 「私って人の人生の一部なのかも」とか、「社会の歯車だな」って感じるときがあるじゃないですか。もちろんそう思えるからこそ寂しくなかったり、社会に貢献できてると感じたりできるから、その感覚も必要なんですけど、あまりにそればかりだと自分を失ってしまうような、むなしい気持ちにもなりますよね。 でも食べたいものを選んでそれに全力で向き合っている時間って、すごく自分の時間を生きている感じがするんです。そこで得られる感情も嘘偽りがないですし。「あ、私、今生きてるな」って実感を持てるのが、私の場合は食べものなんです。 ――何が食べたいのかわからなくなってしまうくらい虚無の状態になってしまったらどうしていますか? 平野さん:「もうダメだ。スーパーに入ったのに何も買わずに出てきてしまった。食材が何も訴えかけてこない……」って日もありますよね。もうそれくらい虚無になってしまったら、私は、コンビニの冷凍鍋焼きうどんを食べるって決めています。夏でもちゃんと売っていますし。化石のように霜がかかっているときもありますけど(笑)。考えるのも負担になるので、決めておくと気持ちがラクになります。 Uberも信頼と実績の鬼リピ店がいくつかあります。とあるイタリアンはおひとりさまのお任せコースみたいなのがあってもはやメニューを選択する必要もない。もう色々限界だ!という時は、仕事の帰り道にそれを頼んで、家に着くなり料理を受け取り、YouTube観ながらだらだら食べるのもめっちゃ幸せです。