出産直前にコロナ感染、まさかの帝王切開に!世界で突出する日本のお産「過剰対策」 「理想」とはほど遠い出産を余儀なくされたある女性の悲哀
新型コロナウイルス感染症の流行が始まってからもうすぐ3年半。この間多くの出産現場では、妊婦が感染すると医療従事者への二次感染を防ぐため、一律に帝王切開を実施する異例の対応が行われてきた。しかし効果は限定的。適切な対策を取れば通常分娩でも問題ないとされ、多くの国では感染対策のための帝王切開を取り入れていないばかりか、世界保健機関(WHO)も推奨していないのが実情だ。新型コロナの法的位置付けが5類に移行した今、当事者は「出産現場だけを取り残さないで。過剰な対策は見直して」と訴える。コロナ禍の出産現場で浮き彫りになったのは、妊婦の権利を軽視するこの国の姿勢だったのではないか。(共同通信=前田有貴子) ※この記事は、記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」をお聞きください。https://omny.fm/shows/news-2/27-who ▽つらい体験 東京都の伊藤睦美さん(39)は2022年1月末、助産院での妊婦健診の帰り道、同居の親にコロナの症状が出たことを知った。「まさか」。出産予定日の数日前だった。夫や長女(5)に囲まれた自然分娩(ぶんべん)を計画していた。助産師から経過は順調だと伝えられたばかりで、長女も出産に立ち会えるのを楽しみにしていた。感染したら病院で帝王切開になってしまう。感染対策にあれだけ気を付けていたのに―。目の前が真っ暗になった。
その後、自身も陽性が判明した。体調に大きな問題はなく、何とかこのまま助産院で生むことはできないか相談したが、保健師からは「遅くなると受け入れ先が見つからない可能性がある」と救急搬送を促された。5カ月前に自宅で出産を余儀なくされた陽性妊婦の赤ちゃんが死亡した報道が頭をかすめた。心の整理がつかないまま総合病院に搬送された。 翌日に帝王切開することになり、泣きながら手術台に上がった。赤ちゃんは防護服の医師に取り上げられ、顔を見る間もなく別室に連れて行かれた。1日に5分だけ、タブレット越しに赤ちゃんの様子を見る機会があった。赤ちゃんにあげるはずだった母乳は、3時間おきに搾り出しては、トイレに捨てた。理想とはほど遠い出産。「本当に産んだのだろうか」。定期的に悲しい気持ちが押し寄せ、涙があふれた。 出産から約1週間後の退院時は、裏口から帰宅するよう促され、「移送中」という看板が立てられた通路を通り荷物搬入用のエレベーターで初めて我が子と対面。「おめでとうございました」と手渡された。おめでたいはずなのに何か悪いことをしているかのように感じた。