出産直前にコロナ感染、まさかの帝王切開に!世界で突出する日本のお産「過剰対策」 「理想」とはほど遠い出産を余儀なくされたある女性の悲哀
「こんな状況で受け入れてもらったこと、出産できたことに感謝しなければ」。そう自分に言い聞かせても気持ちが追いつかない。コロナに感染した自分が悪いのだと、つらい体験を周囲に話すことははばかられた。帰宅後も前向きに育児に取り組むのに時間がかかった。 ▽過半数で実施 日本の産科医療現場でこうした態勢が取られたのは、日本産婦人科医会など関連3学会が2020年4月、陽性妊婦について「原則帝王切開とすることもやむを得ない」とする見解を示したことが発端だった。出産時にいきんだり激しく呼吸したりすることで、周囲の医療従事者の感染リスクが高まるとされ、多くの病院で計画的に実施できる帝王切開が選ばれた。新生児への感染を防ぐため、母子別室や母乳を与えないことも推奨された。同時に感染していない妊婦のお産でも、立ち会い出産や面会が制限された。 医会が昨年実施した全国の産科病院に対する調査では、昨年1~2月の流行「第6波」で妊娠37週以降の陽性妊婦を受け入れた施設の68%が感染対策のために帝王切開を実施していた。7~8月の第7波では51%。2年以上たっても帝王切開が過半数を占めている実態が明らかになった。
調査を実施した日本産婦人科医会の長谷川潤一常務理事は「感染妊婦を受け入れる病院が足りない地域もあり、産科の医療崩壊を防ぐために、受け入れ病院の中では分娩時間の短い帝王切開を選択せざるを得なかった」と説明する。 感染者数の減少とともに帝王切開も減る傾向にあるが、関連学会は5類に移行した今も容認の姿勢を変えていない。 ▽WHOは異なる見解 一方、世界ではコロナ禍でもこうした対応は広がらなかった。WHOは「コロナ陽性というだけで帝王切開をするべきではない。出産方法は女性の意向に基づいた方法が取られるべきだ」との見解を示す。また出産後も母子同室で触れ合ったり授乳したりすることによる母子愛着形成の利点は「感染リスクを大幅に上回る」としている。 日本のコロナ禍の出産現場で女性が不必要につらい経験をしているとして、医療者や研究者ら有志は「リプロ・リサーチ実行委員会」を結成。厚生労働省などに改善を求める要望書を提出してきた。妊産婦のストレス上昇による産後うつの増加などを懸念する。運営メンバーの一人白井千晶静岡大教授(医療社会学)は「本来立ち会い出産や付き添い、面会を含め、出産の手法や環境について正しい情報を得て選択するのは妊婦の権利なのに、日本では付加的サービスと捉えられている。だから非常事態に真っ先に取り除かれてしまった。まさに人権問題だ」と指摘する。
伊藤さんは「科学的根拠がないと分かってきた今、過剰対策でこれ以上つらい出産を経験する人を増やさないでほしい」と訴えている。