デレク・ジャーマンの名言「楽園は庭にあらわれる。」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。イギリスの映画監督デレク・ジャーマン。哲学者ウィトゲンシュタインなどの伝記的映画や同性愛を主題にした作品など、テーマはさまざまに、いずれも前衛的な表現を続けた。そのなかの1作『ザ・ガーデン』のロケ地になったのは自身の庭だった。死の際まで書き続けた文章には、庭についての明るい哲学が記されている。 【フォトギャラリーを見る】 楽園は庭にあらわれる。 ところはイギリス南東部の先に位置するケント州ダンジネス。フランスは目と鼻の先で第二次世界大戦中にはドイツ軍の上陸に備えて地雷が埋められ、対戦車用フェンスが張られたという。陽射しは強く、降水量は少なく、「土のない玉砂利にわずかな植物が生えているだけ」のこの場所に、デレク・ジャーマンは暮らし、庭を作った。 その家、プロスペクト・コテージに移り住んだのは1986年のこと。俳優のティルダ・スウィントンとパートナーのキース・コリンズとともに車を走らせていたときに売りに出ていることを発見し、750ポンドで購入。レンガとコンクリートの瓦礫のロックガーデンからスタートし、時間をかけて様々な植物に囲まれるようになっていった。 自身がこの世を去る直前まで書き綴った本書で彼はこう語っている。「楽園は庭にあらわれる。」と。ほどよく手入れし、植物が生い茂る庭は楽園そのもので、自身の庭もそのひとつだという。庭は安らかなセラピーの効果がある、と冒頭と終わりのほう、つまり死の間際にも書いていることは象徴的だ。 「ぼくはいつだって情熱的な庭師だった」と書くとおり、植物はもちろん、庭を駆ける動物や昆虫の知識が豊富で、150枚を超える写真と合わせて読んでいると、その場の光景がこちらに迫ってくるようでさえある。それのみならず、時折書きつけられる自身の詩や、コテージの外壁に詩人ジョン・ダンの詩句を打ち込むさまも、読みどころであり見所でもある。ちょうど庭を散策しているかのように味わえる1冊だ。
デレク・ジャーマン
1942年ロンドン生まれ。舞台セットや衣装デザインや、MVも手掛ける。映画作品に本書で綴られる庭で撮影が行われた『ザ・ガーデン』(90年)や、『ヴィトゲンシュタイン』(92年)など。死因となったエイズをテーマにした映画『BLUE ブルー』を93年に発表し、翌94年に死去。
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