32歳が最も輝き「黄金期到来の予感」 胸トラップさえも…J王者の進化を「垣間見た」【コラム】
ベテランが多いこともそれほどマイナスには感じさせない
ほかにも神戸には相手とのヘディングの争いの場面においても、クリアするだけで精一杯となるところを味方へと素早くつなげる、的確な判断力が目に留まった。攻撃に転じてからの流れによどみを作らないところが、いまの神戸の強みだ。 G大阪の選手も高い集中力を持ってプレーしていたことは間違いない。だが、神戸の選手たちはパスやトラップといったゲームを作る最小の単位である1つのプレーに、細心の配慮とチーム戦術への意図を持ってこなしていた。そうしたプレーの積み重ねが攻撃全体のスピードを落とすことなく、より高度な崩しを作り出したと言える。 このボールに対する集中力はさまざまな局面に波及し、敵陣で攻撃をクリアされたセカンドボールへの寄せの速さにも表れる。一度の攻撃が跳ね返されてもルーズボールをものにし、G大阪を根負けさせるように、これでもかと波状攻撃でゴール前にラストパスを供給していく連続プレーには迫力があった。 そうした細心さとダイナミックさを合わせたプレーを、ピッチで最も見せていたのが武藤嘉紀だろう。マーカーがいても怯むことなく果敢にドリブルを仕掛け、相手守備網に風穴を開けていった。マークを受けても逃げのドリブルやパスがほとんどなく、自分のピッチでの表現力に自信を持っていることが、ありありと感じ取れた。 サッカーにおける選手寿命を考えると、武藤の32歳という年齢は決して若くはない。しかし、鍛え上げられた身体から繰り出されるパワーとテクニックを兼ね備えたプレーは、好調の神戸のなかで最も輝いていた。 その神戸は最終盤を迎えたリーグ戦でも、サンフレッチェ広島やFC町田ゼルビアを抑えて優勝候補の最有力となっている。安定感のある試合運びに加えて結果も出し、中心選手にベテランが多いこともそれほどマイナスには感じさせない神戸には、まだその入口に立ったに過ぎないが黄金期の到来の予感が漂う。 天皇杯の優勝は、神戸サッカーの神髄を見せつける勝利だった。 [著者プロフィール] 徳原隆元(とくはら・たかもと)/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。80年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。
徳原隆元 / Takamoto Tokuhara