津久井やまゆり園の事件から8年、「自分らしく生きる」知的障害者の自立生活と支える人々 #令和の人権
大さんには重度知的障害のほか、広汎性発達障害、自閉症がある。言葉によるコミュニケーションは限られており、光や音に対して人よりも敏感。特定のものへの強いこだわりもある。そんな大さんが、常に介護が必要な障害者の生活全般を公的に支える「重度訪問介護」の制度を使って、アパートで自立生活を始めたのは2019年10月のことだ。重度の知的障害がある人の一人暮らしは、水戸市では初のケースだったという。主に身体障害者の生活を支える障害当事者団体、「自立生活センター(CIL)いろは」(水戸市)のヘルパー11人が交代で、24時間態勢で大さんの日常生活を支えている。 一人暮らしを始める前のおよそ10年間、大さんは知的障害者の入所施設で暮らしていた。施設では、物を壊したり、職員の女性に噛みついたりすることがあったという。起床、食事、作業、就寝……。生活の全てを管理されていることにストレスを感じていたのかもしれない。 そんな中、大さんの兄・透さんは、その頃ヘルパーとして勤めていたCILいろはの稲田康二代表(55)に、大さんの自立生活を支援するよう掛け合う。当時のことを、稲田代表はこう振り返る。
「いずれは知的障害のある人の支援を行いたいと考えていましたが、今の人員でできるのかという不安もあった。しかし、映画『道草』(重度の知的障害がある若者が支援を受けながら都内で一人暮らしをする日々を追った、宍戸大裕監督のドキュメンタリー映画。津久井やまゆり園の元入所者で、重傷を負った尾野一矢さんの姿も描かれている)を見て、知的障害のある人の自立生活をイメージできたことで、支援する決断ができた」
ただ、懸念もあった。ヘルパーが利用者である大さんを管理してしまうのではないか、というものだ。CILの介助は、先回りしたりせずに当事者の指示によって動くことが基本。しかし、大さんはヘルパーに興味を示さず、自らの意思を伝えようとすることもほとんどなかった。大さんの支援の中心的存在であるCILいろはのコーディネーター、本橋和哉さん(36)は「当初は関係性がなかなか築けず、何をしたらいいのかわからなかった。何も訴えがないっていうことは何も求めていないのかな、やっぱり介助というよりは管理なのかな」などと思ったという。