CMに大谷翔平、ダンロップ「二刀流」の勝算 タイヤの1%市場に挑む
慎重な販売戦略
大谷選手を使った大々的な宣伝の一方で、住友ゴムは新製品の展開には慎重な姿勢を見せている。同社はこれまで、国内向けタイヤではオープン価格を用いていたが、シンクロウェザーでは希望小売価格を設定した。また、新たに認定店制度も導入した。同社が主催する勉強会に参加した上で、認定試験を実施。合格した販売員のいる店でのみ販売できる。 なぜ、あえて新商品の販路を制限するような戦略をとるのか。同社執行役員・タイヤ事業本部国内リプレイス営業本部長の河瀬二朗氏は「オールシーズンタイヤはまだ理解が十分に広がっていない市場だ。新しいモノを売るのではなく、新しい選択肢として正しく認知をしてもらう必要がある」と話す。氷上特化型のスタッドレスタイヤと比較した場合には、氷上性能は劣ってしまう。ドライバーの過度な期待による「期待外れ」を生まないためだ。 また、ドライバーがお得になることは、同時に売り上げが落ちかねないということだ。都内のあるカー用品店の従業員は「当然、お客さんには夏冬両方購入してもらい、タイヤ交換までした方が売り上げとしてはベスト。お客さんに多くの選択肢を提供するために並べているが、どの程度普及していくのか見通しはわからない」との声もある。河瀬氏は「販売店、お客様と、丁寧に説明して販売していく必要があると考えている」と話す。 ●求められるタイパとスペパ では、どういった勝機を見いだしているのか。住友ゴム常務執行役員・タイヤ事業本部技術本部長の松井博司氏は「冬タイヤの代替ではなく、今後、夏タイヤの代替品になっていくことを考えている」と話す。 実は、オールシーズンタイヤの国内販売量に占める割合はわずか1%ではあるものの、24年7月から9月にかけては前年比46%増と販売量が急激に増加している。そのカギとなっているのが、タイムパフォーマンスとスペースパフォーマンスだ。 「オールシーズン(タイヤ)ってどうですか?」。カー用品を扱い、車の整備なども行う「A PIT オートバックス東雲」(東京・江東)では、直近2年間ほどで問い合わせが一気に増えたという。同店の細田海斗さんは「地域の特徴が大きく影響していると考えている」と話す。 同店のある江東区の湾岸エリアは、タワーマンションが数多く立ち並ぶエリアだ。タイヤの保管場所がなく、スペースの確保が難しい。ベランダで保管するケースも少なくないが、紫外線や乾燥は冬タイヤの性能を劣化させる要因にもなる。また、都市部にはカー用品店も少ないため、積雪時のタイヤ交換は予約を取りづらい地域だ。 GfK NIQジャパンによると、オールシーズンタイヤの販売数の地域別割合は首都圏45%、東海地方17%、近畿地方13%と、積雪頻度の低い都市部での需要が高い。 同社アカウントエグゼクティブの酒々井誠氏は「夏冬をタイヤを履き替える手間や保管が不要になるなどのメリットの認知が向上することで、今後の成長が期待される」と分析する。松井氏も「雪が降るか降らないかという、南東北以南や都市部をターゲットにしている。その地域のドライバーの心をいかにつかめるかだ」と話す。 タイヤメーカー各社も好機を逃すまいと動き始めている。国内シェアトップを誇るブリヂストンはスタッドレスタイヤの「ブリザック」の人気が高いが、オールシーズンタイヤを「マルチウェザー」というブランドで取り扱う。横浜ゴムも近年タイヤのラインアップを増やしている。 電動化や自動運転が進む将来のモビリティー社会では、ドライバーの負担軽減が求められる。交換の手間が省け、ドライバーを楽にすることができるオールシーズンタイヤは、タイヤ市場のゲームチェンジャーになっていくのかもしれない。
齋藤 徹