『光る君へ』のまひろも同じ運命に?「紫式部は地獄に堕ちた」という驚きの伝説を追って。式部を救ったのはミステリアスな“閻魔庁の役人”。なぜか今も隣り合わせに眠る2人の縁とは
◆紫式部を地獄から救ったのは…… ところで、冒頭でも紹介したように、罪深い『源氏物語』を書いた咎で「地獄に堕ちた」といわれる紫式部は、その後、どうなったのでしょう。 その謎を解く鍵が、本連載の第2回でも紹介した紫式部の墓所にあります。 紫式部の墓の隣には、平安時代初期の公卿、小野篁(たかむら)の墓が並んでいます。同じ平安時代とはいえ、2人が生きた時代には200年ほどの隔たりがあります。いったいどういう縁で、2人の墓は並んでいるのか……。 有力な説を紹介しましょう。小野篁には、“冥界の裁判官”という夜の顔がありました。閻魔大王の補佐として、地獄行きかどうかの判決の助言をしていたというのです。 地獄に堕ちてしまった紫式部を助けるべく、篁は閻魔大王にかけあいます。そして、彼女を地獄から救い出したあと、自分の墓の隣に埋葬したのではないか。そう伝えられているのです。 ほかにも、地獄に堕ちた紫式部を哀れんだ人たちが、篁に彼女を助け出してほしいと願って、彼の墓を紫式部の墓の横に移したという説や、閻魔大王に地獄に落とされそうになっているところを、篁がとりなした(つまり、紫式部は地獄行きを免れた)という説など、さまざまなバージョンがあるようです。 もちろん、どれも伝説にすぎず、真相は謎に包まれています。確かなことは、紫式部と小野篁の墓所が隣り合っているという事実だけ。 とりあえず、紫式部は今も地獄で苦しんでいるわけではないようです。『光る君へ』ファンとしては、ひと安心といったところでしょうか。
◆六道珍皇寺にある「冥土通いの井戸」 このような伝説から、ファンタジーの世界の住人のように思える小野篁ですが、れっきとした実在の人物。嵯峨天皇に仕えた公卿(参議)で、飛鳥時代に遣隋使として活躍した小野妹子の子孫にあたるとか。6尺2寸(約186センチ)という当時としてはかなりの長身で、反骨精神にあふれる熱血漢だったそうです。 天皇の怒りをかって隠岐に流されたこともあるものの、早々に流罪を解かれて帰京。文武に優れ、漢詩や和歌、書の達人として知られていました。 わたの原 八十島(やそしま)かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ あまの釣舟 隠岐に旅立つときの悲しみを詠んだこの歌が、百人一首にも採録されています。 昼は朝廷の、夜は閻魔庁の役人として、あの世とこの世を行き来して働いていた――奇怪な「小野篁・冥官伝説」が生まれた経緯はよくわからないものの、平安末期にすでに伝説となり、室町時代にはほぼ定着していたとか。 また、毎夜の冥府との行き来には、六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)にある井戸を使っていたそうです。 六道珍皇寺のあるあたりは、古来より、六種の冥界「六道」の分岐点、つまり「この世とあの世の境の辻(六道の辻)」だと考えられてきました。今も六道珍皇寺の本堂裏には、篁が冥土通いに使ったとされる井戸があり、伝説に信憑性を与えているのです。 観光客が押し寄せる八坂神社や清水寺からもそう遠くない場所ですが、この門前を通ると、身震いするような何かを感じるという人もいるほど。小野篁や「冥界の入口」に興味がある方は、一度訪ねてみてはいかがでしょうか。
SUMIKO KAJIYAMA
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