中国人民解放軍は「習近平ご夫妻の私兵部隊」となるのか~主席夫人・彭麗媛「軍人事掌握説」の真偽を探る
解放軍の歌姫が
5月5日付の香港紙・星島日報は、習近平・中国国家主席夫人の彭麗媛氏が共産党中央軍事委員会の幹部審査評議委員会専任委員に就任していると報じた。 【写真】これが習近平の解放軍幹部大粛清の全貌、要するにロケット軍の品質に問題あり 同紙によると、彭氏が軍で活動する様子の写真が交流サイト(SNS)に出回り、写真の説明には彭氏の肩書が幹部審査評議委員会専任委員と記されていた。彭氏は軍の学校を訪れ、軍上層部の人材育成を視察したという。 「中央軍事委員会・幹部審査評議委員会」は、2016年10月に設立されたものである。2017年9月1日付の解放軍報記事によると、委員会の設立は習主席の直接指示によるものであって、「これは習主席が自ら行った重大なる意思決定であり、軍事委員会主席責任制を貫徹させるための重要措置」であるという。このような説明からも、「幹部審査評議委員会」はまさに習主席が軍人事掌握のために設立した重要機関であり、習氏による軍支配の要であることが分かる。 したがって、もし習主席夫人の彭氏はこの委員会の専任委員に就任している報道が本当であれば、彭氏はすでに中国軍全体の人事決定に深く関わっており、習主席の代理人として軍掌握を補佐する立場にあることを意味する。 ちなみに彭氏はもともと軍所属の歌手であって少将の軍階級を持ち、2017年まで解放軍芸術学院院長を務めていた。
すでに軍の人事に影響力行使
ここでの問題はまず、上述の星島日報報道にどれほどの信憑性があるのかであるが、それを探るためにはまず、星島日報の正体を一度見てみよう。 星島日報は1935年に創刊、香港に本部をおく星島新聞グループが発行する新聞紙である。それは香港だけでなく米国、カナダ、豪州などで支社を設置して各国の地方版を発行し、世界各地の華僑たちを読者に持っている。こうしてみると、星島日報が長い歴史と伝統を持つ、香港に拠点を持つ大新聞であることが分かるが、このような新聞紙が真っ赤な嘘記事を書くようなことは普通はしないだろうと思われる。 さらに重要なことは、国家安全維持法が施行されてからの香港は、その言論の世界はすでに中国共産党政権によって支配されている点である。このような状況下では、香港に本部をおく星島日報は、習近平夫人に関して根拠のないデマや嘘の記事を流すことはまず考えられない。そんなことしていたら一発で潰されてしまうし、新聞社自身はこのような記事を掲載することの重大さは当然よく分かっている。 したがって、星島日報が掲載した前述の「彭麗媛記事」にはかなり高い信憑性があると、筆者の私が判断しているのである。 その一方、星島日報とその所属する星島新聞グループは従来、親中国政府のメディア集団としても知られる。2021年8月、星島日報の米国支社は、米国司法省によって米国で活動する新華社通信分社などの中国官制メデイアと同様に「外国政府代理人」として登録された。この登録で米国政府は事実上、星島日報のことを中共政権の「御用宣伝機関」だと見做していることは分かるし、事実上そうであると思われる。そしてこのことからすれば、星島日報掲載の前述の「彭麗媛記事」に信憑性のあることはもとより、記事の掲載それ自体は、中国政府=習近平政権の意向を受けての報道である可能性さえある。 結論としては、習近平妻の彭氏は「中央軍事委員会幹部審査評議委員会」の専任委員として軍への人事権行使に多大な影響力を及ぼしていることは事実であると本欄が考えているのである。